コラム:米の対中「香港制裁」、見えぬ拳の振り下ろし先
Gina Chon
[サンフランシスコ 29日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 中国が香港の政治統制を強化する国家安全法制導入の方針を決定し、米国が対中制裁に動く構えを見せたことから、両国の緊張が一段と高まっている。だが、制裁を通じて達成すべき目標は不明確だ。
トランプ米大統領は29日、中国政府当局者に制裁を科すための手続きを講じると表明。かつてないこうした措置は、米中対立をエスカレートさせるだろうが、恐らく中国側の行動を止める効果はなく、報復を招くだけになりかねない。
米政府としては、香港の民主化問題を巡る騒乱に対して何カ月もの間、自重する姿勢を保ってきたが、その末に思い切った対応に乗り出した形だ。中国全国人民代表大会(全人代)が、香港への国家安全法制導入の方針を決定した翌日、トランプ氏は「香港の自由抑圧」に関係した中国政府当局者の責任を追及すると断言したが、具体的な内容は明らかにしなかった。
また、米国が香港に付与してきた貿易や渡航などについての特別優遇措置の廃止も進める方針を示した。これはポンペオ米国務長官が27日、香港にはもはや優遇措置を与えるにふさわしい高度な自治が存在しないと宣言したことに基づいている。
トランプ氏が仕掛けた貿易戦争など、中国に向けられたいくつかの別の圧力には、はっきりとした着地点があった。米中の貿易協議が合意に達すれば、少なくとも中国からの輸入品約3700億ドルに適用されている関税の一部は撤廃されるだろう。今年1月にはいわゆる第1段階の合意文書が調印され、中国は今後2年間で米産品を2000億ドル追加購入する条件を受け入れた。
一方、中国が国家安全法制の香港への導入を止めず、なおかつ米国に制裁を撤回してもらう道筋は見えてこない。オバマ前大統領の場合はイランに対し、交渉のテーブルに着かせる目的で今回と同じような制裁を発動した結果、核開発制限の合意と制裁緩和につながった。その後、トランプ氏はイランの手足をより縛ることを狙って、制裁を復活させている。
ただ、中国は香港問題で決して妥協しないし、米政府もそれを承知している。だからこの制裁や他の措置は、香港への国家安全法制導入や新型コロナウイルス感染対応、あるいは中国の経済的な振る舞いに対する「懲罰的」な意味合いにしかならない。
ポンペオ氏は28日、米FOXニュースに「中国内部の専制体制に対抗する一連の措置」を打ち出す意向を示唆した。選択肢の1つになるのは、人民解放軍との関係が疑われる中国人米留学生への査証(ビザ)取り消しだ。
中国側は、例えばアップルなど中国事業比率の大きい米企業への規制といった報復に動いてもおかしくない。それが既に米議会の与野党がほぼ共有している反中感情と相まって、米政府のさらなる報復につながる可能性がある。しかし、今回の場合、お互いにどうやって振り上げた拳を収めるのかは全く不明だ。
●背景となるニュース
*トランプ大統領は29日、香港に対する優遇措置を撤廃するよう政権に指示したと明らかにした。香港の統制強化に向けた中国政府の「国家安全法」制定計画に対抗する。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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