コラム:米大手投資銀、世間が納得しない大幅な報酬増額
Antony Currie
[ニューヨーク 17日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米大手投資銀行の賞与が、世間の非難を浴びかねない水準まで再び膨れ上がってきた。モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、JPモルガンはいずれも、第2・四半期にトレーディングや引き受け業務の収入が急増したことを受け、報酬支払額を前年同期に比べてずっと大きく引き上げた。だがこうした好業績は米連邦準備理事会(FRB)の大盤振る舞いなどのおかげで実現し、片や何百万人もの国民が新型コロナウイルス危機に伴う経済悪化に苦しんでいる中で、多額の報酬を払うという理屈は業界の外では全く通用しないだろう。
ゴールドマンの報酬・諸手当は前年同期比で35%増え、JPモルガンの法人・投資銀行部門も41%増加。モルガン・スタンレーの投資銀行を手掛けるインスティテューショナル・セキュリティーズ部門にいたっては、前年同期を65%も上回った。
各行の業績だけを見れば、報酬額に違和感はない。どこも報酬の伸びを収入の伸び以下に抑えており、株主は前年よりも追加利益の取り分が多くなる。また本来、銀行の報酬は業績と連動することが想定されている。
問題はその業績が、単に自分たちの能力や勤勉さだけで上向いたわけではない点にある。FRBの超低金利政策と資産買い入れプログラム、そして財務省が実施した航空会社向け支援などが資本市場を支え、資金流入につながったのだ。
これらの要素が相まった結果として、第2・四半期の株式売り出しは過去最高を記録し、ボラティリティー上昇を背景にトレーディングが活発化したことで、大手投資銀行の業績と報酬が人為的かつ一時的に押し上げられたと言える。
一方で議会からは、新型コロナの経済に対するマイナス効果が定着しているにもかかわらず、銀行が配当を減らさないことを批判する声が既に出ていた。米政府関係者の間では、10年前、実体経済が金融危機の痛手になおあえいでいるのに、投資銀行幹部らが高額の賞与を手にしていた記憶も残っている。2008年の金融危機を踏まえ、議会が銀行業界のさまざまな失態について責任を追及した際には、行き過ぎた報酬も項目の1つに入っていた。業界の見るからに貪欲な態度は市民の怒りも招き、「ウォール街を占拠せよ」の運動にまで発展した。
では世間の悪評を免れるにはどうすれば良いだろうか。その1つの方法は、ゴールドマンが前回の金融危機後に講じた措置を参考にすることだ。ゴールドマンは多過ぎる報酬を何とかしろと迫られ続けたことから、09年の賞与資金から5億ドルを慈善活動に振り向けた。各行がまた同じように人道的な行動を示せば、この先10年間は業界のためになるかもしれない。
●背景となるニュース
*モルガン・スタンレーの投資銀行部門は16日、第2・四半期に報酬・諸手当のために計上したのは約30億ドルで、前年同期比で65%増加したと発表した。同部門の収入は68%増だった。
*ゴールドマン・サックスは15日、第2・四半期の賞与や諸手当の支払額が35%増えておよそ45億ドルに達した一方、収入は41%増の130億ドル超になったと明らかにした。
*JPモルガンが14日発表した法人・投資銀行部門の報酬・諸手当支払額は41%増の40億ドル、収入は66%増だった。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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