焦点:IMF世銀年次総会、世界各国がトランプ氏貿易戦争に悲鳴

焦点:IMF世銀年次総会、世界各国がトランプ氏の貿易戦争に悲鳴
 10月19日、国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会は、各国から集まった財務相や中央銀行総裁らが、トランプ米大統領による貿易戦争の被害の深刻さを訴え合う場と化した。写真は米ワシントンに顔をそろえた各国財務相と中銀総裁。10月19日撮影(2019年 ロイター/Mike Theiler)
Andrea Shalal Heather Timmons
[ワシントン 19日 ロイター] - 18─20日に開かれた国際通貨基金(IMF)と世界銀行の年次総会は、各国から集まった財務相や中央銀行総裁らが、トランプ米大統領による貿易戦争の被害の深刻さを訴え合う場と化した。また米国の政策が、IMF創設に積極的に関与した1940年代から何とかけ離れてしなったことか、と嘆く声も聞かれた。
世銀のマルパス総裁は、IMF創設に至った状況について「世界経済は10年を超える高い関税の障壁や不況、戦争で打ちのめされていた」と指摘し、当時のモーゲンソー米財務長官が国際的な経済システムを称揚したと付け加えた。そこで米国が発したのが「第1に経済的な繁栄に制約は存在せず、第2に繁栄の幅広い共有こそが全ての人に恩恵を与える」というメッセージだったという。
ところがこの総会では、米国の貿易戦争がもたらす意図せざるマイナスの影響が鮮明になる一方で、IMFのゲオルギエワ専務理事は「誰もが敗者になっている」と断言した。
世界最大の輸入国である米国が、世界最大の輸出国の中国と関税の応酬を始めたのは1年3カ月前だ。またトランプ氏は、米国の主要貿易相手の多くと通商協定を再交渉したり、時にはせっかくの関係をぶち壊している。
そのあおりを受け、IMFは今年の世界経済の成長率が3.0%と、過去10年で最も低い伸びになると見通しを下方修正した。
もっとも主要20カ国・地域(G20)はおしなべて輸出が落ち込んだとはいえ、痛みの大きさは均等ではない。米国は国内の消費市場が大きいため、引き続き最もダメージが少ない。
<欧州の痛み>
欧州連合(EU)欧州委員会のモスコビシ委員(経済・財務・税制)は、欧州諸国は輸出に依存し、貿易に積極的なので、とりわけ打撃が深刻になっていると話す。
ドイツの昨年の国内総生産(GDP)に占める輸出の割合は40%強と、主要国中で最も高い。ショルツ財務相は記者団に、企業界に不透明感が広がっていると説明した。
同国の卸売・貿易業連合会(BGA)は最近、今年のドイツの輸出伸び率見通しを1.5%から0.5%に引き下げた。その結果、多くの企業は投資計画を縮小しており、中には数年単位で影響するケースも出ている。ショルツ氏は、英国のEU離脱とEU・米国間の貿易摩擦が世界経済の成長の足を引っ張っているのは火を見るよりも明らかだと指摘した。
アイスランドなど輸出依存型ではない国も苦しんでいる。2008年の銀行危機でIMFの支援を仰いでから奇跡の回復と称されるほど経済が持ち直した同国だが、足元でそうした基盤が脅かされているのだ。ジョウンソン中銀総裁によると、銀行危機以降に5倍増の年間250万人になった外国人旅行者が、貿易戦争が始まってから急減し、この夏は前年比15.6%も減少した。それに伴って外国人旅行者が頼りの外貨準備も目減りしているという。
<米国にも忍び寄る影響>
18日には日本の内閣府が10月の月例経済報告で景気の総括判断や生産の判断を下方修正した。生産面では、主に米国向け自動車輸出の軟化が響いたと説明された。
日銀の黒田東彦総裁は「世界的な成長の加速が遅れている。日本経済は輸出が相当弱含み、それが生産に影響を及ぼしつつある」と述べた。
米国も、貿易戦争で全く被害がないわけではない。特に農家は中国が米農産品に関税を課したため痛手を受け、トランプ政権が大規模な支援を余儀なくされている。
米政府が鉄鋼・アルミニウムに輸入関税を適用していることや、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)が発効するかどうか不確実な情勢が、地域経済の足かせになっている面もある。
カリフォルニア州ウエストサクラメント市のカバルドン市長は、インフラ整備事業の落札額が想定よりも80%高くなったと述べ、建設業者がコスト増や将来の追加関税リスクを織り込む必要があったからだとの見方を示した。
カバルドン氏はロイターに「われわれのような小さな都市でさえ、国際貿易の影響が見て取れる。地域経済が国際システムと深くつながっていることを痛感している」と語った。
<新興国の動き>
世界的な貿易摩擦を背景に、アフリカ諸国は地域内の経済取引をより活発化させようとの取り組みを進めている。ケニア政府の高官は「自分たちで貿易を拡大させなければならない」と強調した。
セネガルのジャロ財務相は、米中摩擦でアフリカ諸国のエネルギー部門が悪影響を受け、金融市場で利用できる資金が減ったと明らかにした上で、アフリカ大陸の自由貿易協定を実現させる重要性が浮き彫りになったと述べた。
バーレーンの財務相は、ペルシャ湾岸地域も貿易摩擦の影響を受け、投資が冷え込んでいると発言。ロイターに対して「貿易摩擦が不透明感を生んでおり、その不透明感から誰も逃れられない」と警告した。
ペルーは8月に今年の経済成長率見通しを4.2%から3%に引き下げた。メキシコは景気後退寸前で、政府当局者は10年余り前の前回の景気悪化時よりも好転させるのが難しいかもしれない、との弱音を漏らしている。

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