FRB、量的緩和を無制限に:識者はこうみる

FRB、量的緩和を無制限に:識者はこうみる
米連邦準備理事会(FRB)は23日、緊急の連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、新型コロナウイルスへの対応として、無制限の量的緩和を行う方針を決定した。ワシントンのFRB本部で2018年8月撮影(2020年 ロイター/Chris Wattie)
[23日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)は23日、緊急の連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、新型コロナウイルスへの対応として、無制限の量的緩和(QE)を行う方針を決定した。米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を必要なだけ買い取る。決定は全会一致。
声明では「新型コロナによる衛生危機に伴い、経済が深刻な混乱に直面することが明白になってきた」とした上で、「市場の円滑な機能への支援や経済・金融情勢全般に対する金融政策の効果的な波及を促す」と表明した。
市場関係者のコメントは以下の通り。
●流動性危機で「ヘリマネ」に乗り出すFRB
<三井住友銀行 チーフストラテジスト 宇野大介氏>
米連邦準備理事会(FRB)による矢継ぎ早の流動性措置は、コロナ感染拡大を受けた景気後退を防ぐことが第一義ではなく、信用収縮を背景とするデフォルト(企業倒産)への対応策・予防策という意味がある。
昨年9月中旬に米短期金融市場で起きたドル資金の取り上がりは、流動性危機の最初の事例だったのかもしれない。なぜなら、それ以降のFRBはレポオペ(米国債等担保の資金供給)の金額や回数を増やし、流動性を供給することにかかりきりとなった。
FRBは、今月3回の緊急政策決定会合でゼロ金利政策の復活や量的緩和(QE)の再開を決め、企業金融の支援措置としてコマーシャルペーパーの買入やMMF(マネー・マーケット・ファンド)の流動性支援策を決めた。また、本来直接の取引先ではないプライマリーディーラー(証券会社)にまで資金繰り策を講じたほか、23日には米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を無制限、オープンエンドで買い取る「無制限QE」を行う方針を決めた。
米国が現在行っているなりふり構わぬ大量のマネー供給は、デフレ脱却策としてFRBがかつて日本に勧めたとされる「ヘリコプター・マネー」(国の債務を増やさずにマネーの量を増やそうとする政策)に米国自らが乗り出したものと考えられる。
今の米国経済はデフレではないが、ゼロ金利政策を採択し、疑似ヘリマネ対策を行っている以上、ヘリマネが内包するリスクと同様のリスクを現行の金融政策も内包している。
ヘリコプター・マネーは「劇薬」になりうる。
マネーの供給量が増え過ぎれば物価の上昇に歯止めがかからなくなり、ハイパーインフレが起きる危険がある。さらに、需要が変化しない、または落ち込んでいる状況で貨幣だけを増やす政策は貨幣の持つ信用力を棄損させる。
最終的に米国は高インフレと景気後退というスタグフレーションに陥り、米国民の生活が困窮を極めることにもなりかねない。
現在の金融市場では、ドル需給のひっ迫によるドル需要が強いが、ヘリコプター・マネー政策を推し進めていけば、最終的には株売り、債券売り、ドル売りというドル資産のトリプル安を招くリスクがあるとみている。
●支援材料だが財政刺激策なお必要
<レイモンド・ジェームズの首席エコノミスト、スコット・ブラウン氏>
FRBは前週にほぼ毎日流動性を供給し、この日はいくつかの新たな追加措置を講じた。ついていくのが難しいほどありとあらゆる措置を実施している。
数週間前に現れた最大の懸念要因の1つが信用市場の混乱だった。問題発生は予想されていたことだが、すぐに顕在化し、不安が広がった。信用市場の問題により経済が大幅に悪化する恐れがあるため、FRBは金融システムの流動性を確保しようとしている。
もっとも、これらの措置だけでは新型コロナウイルスに対抗することができず、それが大きな問題だ。かなり大きな経済的影響を受けており、エコノミストによる成長見通しが幾度も下方修正されている。
FRBの措置は支援材料だが、財政刺激策がなお必要だ。本当に苦しい立場にある人々に注力しなければならない。失業保険給付の拡大や中小企業の救済、大きな打撃を受けるであろう低所得者層への支援などだ。接客業など一部の労働者が職を失い、収入がないなど非常に悲惨な状態になっていると聞いている。現時点で本格的な危機になっている。
●現時点で必要な措置、市場の現状は継続へ
<アメリプライズ・ファイナンシャル・サービシズの首席エコノミスト、ラッセル・プライス氏>
FRBの発動した「バズーカ」であり、景気支援に必要な流動性を供給する構えを明示した。短期的に企業が必要とする流動性を供給し、金融システムが適切に機能することを確実にする上で非常に重要な措置だ。
議会で刺激策が承認されなかったことで、市場はオーバーナイト取引で下落していた。刺激策は必要であり、いずれ可決されるだろうが、現時点で必要なのはFRBの措置だ。刺激策は今後数週間、数カ月間で重要な役割を果たすことになる。
しかし正直なところ、市場は現時点で新型コロナウイルス感染拡大を巡る今後の行方や治療法を待っており、こうした情報や材料が出てくるまで、おそらく今後数週間、市場では待ちの状態が継続するだろう。
●金融危機の再来防ぐ狙い
<エバーコアISI(ニューヨーク)の債券ストラテジスト、スタン・シプリー氏>
2007―2008年の金融危機の再来だけは防ごうというFRBが明確に見てとれる。FRBはほぼ全ての銘柄を買い取り対象にする見通しで、結果として週間のバランスシートの伸びはQE2(量的緩和第2弾)以上になるだろう。新型コロナウイルスの影響で経済の4割が停止し、それでも停止が収まらない状況の中で、リスクは依然あるものの、一定の下支えにはなる見込みだ。
*内容を追加しました。

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