焦点:イラン核合意存続なるか、英仏独の「頼みの綱」は中印

焦点:イラン核合意存続なるか、英仏独の「頼みの綱」は中印
5月9日、イランが米国の制裁再開に対抗し、核合意の履行を一部停止すると表明したが、欧州連合(EU)主要国は合意を守っていく方針だ。写真はイラン国旗。ウィーンのIAEA本部前で3月撮影(2019年 ロイター/Leonhard Foeger)
[ブリュッセル/パリ/ベルリン 9日 ロイター] - イランが米国の制裁再開に対抗し、核合意の履行を一部停止すると表明したが、欧州連合(EU)主要国は合意を守っていく方針だ。もっともEUにとって頼みの綱は中国とインドで、両国がイラン産原油を輸入できなければ核合意は崩壊するとみられる。
英国、フランス、ドイツは2015年に、米国、中国、ロシアと共にイラン核合意に署名。米国は昨年、合意から撤退して制裁を再開したが、欧州3カ国は制裁を回避できる貿易ルートを使って影響を相殺しつつ、同国の核開発を防ぐ構えだ。
しかしイラン経済は、ドル建てで取引される原油輸出に依存している。制裁回避ルートは複雑で未だに機能しておらず、今後も原油販売に使えない可能性がある。
欧州の外交筋高官は「状況が悪化するリスクが出てきたが、一気に崩壊するのではなく一歩ずつ悪くなるだろう」と予想。フランスの外交官は、制裁回避の仕組みが不十分で「負のスパイラル」に陥っていると述べ、別の欧州特使は、イランが核合意から「徐々に撤退」する可能性を指摘した。
EUは、核合意を破棄しなくてもイランのウラン濃縮を制限できるとの立場を取っている。
しかしイランのロウハニ大統領は8日、英国、フランス、ドイツ、ロシア、中国が米国の制裁を回避するためさらなる支援策を打ち出さなければ、ウラン濃縮を再開する可能性を示した。
<食品と医薬品だけ>
欧州の外交官や高官らは、核合意を守る時間はまだ残されているとして、最終通告を受け入れていない。あるEU高官は、イランが合意を順守しなかった場合のEUとしての制裁措置を検討するのは時期尚早だと述べた。
この高官は「イランの発表は、核合意の違反にも撤退にもあたらない。イランの順守状況を評価するのは国際原子力機関(IAEA)だ。イランが合意に違反していれば、その時点でわれわれは対応する」と語った。
米国が制裁を再開した11月以来、イランの欧州向け原油輸出は徐々に減少している。米国は5月2日、イタリアとギリシャの制裁猶予を外し、この時点で中国、インド、トルコも猶予が撤廃された。
EU高官の推計では、イランは経済を維持するために日量約150万バレルの原油を販売する必要があるが、現在は100万バレルを切って経済危機をもたらす恐れが生じている。
EUは、制裁の影響を回避するためにイラン産原油と欧州製品を交換する「貿易取引支援機関(INSTEX)」を発足させた。しかし稼動は6月末で、対応能力にも限りがある。
別の欧州外交筋は「INSTEXは食品と医薬品のニーズに答えるだけで、石油のニーズは満たせないため、解決策にならない。何しろ仕組みがまだ完成していない」と話した。
<中国が頼みの綱>
INSTEXを機能させるには、イランが国際的な不正防止基準を満たす「ミラーカンパニー」を設置する必要があるが、関係者によると準備は進んでいない。法律の制定も道半ばだし、イランの金融システムが透明性を欠いていることも障害だ。
米国が、イラン経済の一部を牛耳るイスラム革命防衛隊(IRGC)を制裁対象としたことも、事態をややこしくしている。前出の欧州外交筋によると、INSTEXを利用する国は、結果的にIRGC絡みの法人を利することのないよう、細心の注意を要する必要がある。
そこで欧州が「プランB」として望みを託すのが、中国とインドによるイラン産原油の購入だ。
中国は、米国による一方的な対イラン制裁に反対し、4月にはイラン産原油の輸入を増やした。外務省報道官は、核合意を完全に履行する必要があると述べているが、中国が合意を守るためにどのような行動を起こすかは定かでない。
一方、イラン産原油の輸入量で中国に次いで世界第2位のインドは、11月以来イラン産の輸入を半分に減らした。今のところ、インド高官らは他の供給先を探すと表明している。
EU高官らによると、インド政府はINSTEXへの参加に関心を示しているが、話し合いはまだ始まっておらず、実行可能かどうか疑問が残る。
英王立国際問題研究所(チャタムハウス)の中東・北アフリカ・プログラムのシニア調査フェロー、サナム・バキル氏は「欧州は自分が出来ないことを中国とインドにやらせようとしており、無能ぶりをさらけ出している」と言う。
「欧州諸国が大局観を持って対応を考えているとは思えない。イラランに提供できるような、意味ある経済的選択肢が無いのは明らかだ」。
一方で欧州の外交官は「イランは欧州に一層の対応を迫っているが、それなら中国とロシアはどうだ。両国はあまり努力していない。中国は米国の制裁を恐れて、いくつかの分野でぐずぐずしている」とこぼした。
バキル氏は、英国、フランス、ドイツは核合意維持のため、関係諸国との高レベルの外交に焦点を絞るべきだと主張。「欧州3カ国が合意存続に向け、使命感を持って努力しなければ合意は崩壊する」と述べた。
(Robin Emmott記者、John Irish記者、Paul Carrel記者)

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