焦点:イラン司令官、死につながった米軍攻撃計画の内幕

焦点:イラン司令官はなぜイラクにいたか、対米攻撃計画の内幕
10月中旬、イランのガセム・ソレイマニ少将は、イラクのシーア派民兵組織の協力者と会合を開いた。写真は6日、イエメンのサーダで行われたソレイマニ氏の殺害を抗議する集会で、同氏のポスター身に着けた参加者(2020年 ロイター/Naif Rahma)
[3日 ロイター] - 10月中旬、イランのガセム・ソレイマニ少将は、イラクのシーア派民兵組織の協力者と会合を開いた。場所はチグリス川河畔にあるバグダッドの別荘で、対岸には在バグダッド米国大使館のビルが並ぶ。イラクに駐留する米軍への攻撃を画策し、やがて自らの死を招く事態につながる戦略会合だった。
<イラン批判の矛先を米国に向ける>
革命防衛隊を指揮するソレイマニ司令官は、イラク側協力者のトップであるアブ・マフディ・アル・ムハンディス氏を初めとする民兵組織有力幹部に、イランが提供する先進的な兵器を使ってイラク駐留米軍への攻撃を強化するよう指示した。この会合について報告を受けた2人の民兵組織幹部、2人の治安当局者がロイターに語った。
会合が開かれたのは、イランの影響力拡大に反発するイラク民衆の抗議が勢いを増していた時期だった。放置すれば、イランに居心地の悪い注目がさらに集まる懸念があった。ソレイマニ氏には、米軍に対する武力反撃を挑発し、イラク国民の怒りの矛先を米国に向ける狙いがあった、と上記の情報提供者、シーア派のイラク政治家、アデル・アブドゥル・マフディ首相に近い政府当局者らは語る。
同司令官の策動は、最終的に、3日の米国による攻撃を誘発した。彼自身とムハンディス氏は首都バグダッドに向かう途中、搭乗する車列が空爆を受けて死亡し、米国・イラン両国間の緊張は一気に高まった。
<米側に顔が割れていない兵士を組織>
この会合の2週間前、ソレイマニ司令官はイラン革命防衛隊に対し、2カ所の対イラク国境検問所を経由して、自走式多連装ロケットランチャーやヘリコプター撃墜能力のある携行式ミサイルなど先進的な兵器をイラクに移動させるよう命じた、と民兵幹部やイラク治安当局者は話した。
さらに同氏は、別荘に集まった幹部らに、イラク軍基地に駐留する米軍に対するロケット弾攻撃を実施できる新たな民兵グループを組織するようもとめた。米国側に顔の割れておらず、目立たないメンバーであることが条件だった。
会合について報告を受けた民兵組織関係者によれば、ソレイマニ司令官は、ムハンディス氏によって設立されイランで訓練を受けた軍団「カタイブ・ヒズボラ」に、この新たな計画の指揮を執るよう命じたという。
「(こういうグループなら)米国側に探知されにくいだろう」。ソレイマニ司令官は会合参加者にそう語った、と民兵組織関係者の1人は言う。
米国政府当局者が3日、匿名を条件にロイターに語ったところでは、今回の攻撃の前に、米情報機関は、イラク、シリア、レバノンなど複数の国で米国民を攻撃する計画の「最終段階」にソレイマニ司令官が関与していたと信じるべき証拠をつかんでいたという。ある米政府高官は、ソレイマニ司令官は「カタイブ・ヒズボラ」に先進的な兵器を供給していたと発言している。
ホワイトハウスのロバート・オブライエン国家安全保障問題担当顧問は3日、記者団に対し、ソレイマニ司令官はダマスカスから戻ったところであり、「(そこで)彼は米国の陸空海軍・海兵隊の将兵、外交官らに対する攻撃を計画していた」と語った。
<ドローンで標的を下見>
革命防衛隊「コッズ部隊」を率いるソレイマニ司令官は、イラン国外での秘密作戦の立案者として、中東におけるイランの軍事的影響力を拡大することに貢献していた。62歳のソレイマニ少将は、アヤトラ・アリ・ハメネイ最高指導者に次ぐ国内ナンバー2の有力者と見なされていた。
元イラク国会議員であるムハンディス氏は、イラクの「人民動員隊」(PMF)を統括していた。PMFは、イランの支援を受けたシーア派民兵を主力とする民兵組織の統括団体で、以前はイラク正規軍に公式に統合されていた。
ムハンディス氏はソレイマニ司令官と同様、以前からずっと米国の警戒対象になっており、すでに米国は同氏をテロリストとして認定していた。2007年、クウェートの裁判所は同国で1983年に発生した米国・フランス大使館爆破事件に関与した罪により、欠席裁判ながら同氏に死刑判決を下している。
中東地域における米軍攻撃の中核としてソレイマニ司令官が選んだのは「カタイブ・ヒズボラ」だった。民兵組織幹部の1人がロイターに語ったところでは、ドローンを使ってロケット弾攻撃の標的を偵察する能力を備えていたからだという。この民兵組織幹部によれば、ソレイマニ司令官指揮下の部隊が昨秋イラク国内の民兵に供給した兵器の1つが、イラクが開発した、レーダーによる監視システムを回避できる能力を備えたドローンだったという。
民兵組織の動きを監視している2人のイラク治安当局者によれば、「カタイブ・ヒズボラ」は、ドローンを使って米軍部隊が配備された地点の空撮映像を収集していたという。
<米軍への攻撃は増加・高度化>
イラク国内では、米軍部隊が駐留する基地に対しイランの支援を受けた組織による攻撃が増加、その手段も高度化していた。ある米軍高官は12月11日、あらゆる当事者が統御不可能なエスカレーションへと追いやられている、と語った。
この高官の警告の2日前には、バグダッド国際空港近くの基地に4発のロケット弾が着弾し、イラクの精鋭部隊であるテロ対策部隊(CTS)の隊員5人が負傷した。この攻撃についてはどの組織も犯行声明を出していないが、ある米軍当局者は、情報機関による活動及びロケット弾・発射機に関する現場検証によれば、イランの支援を受けたシーア派ムスリム民兵組織、特に「カタイブ・ヒズボラ」と「アサイブ・アフル・アル・ハック」の関与が疑われると話している。
12月27日には、イラク北部の都市キルクークに近いイラク軍基地を狙って30発以上のロケット弾が発射された。この攻撃により、米国の民間請負業者1人が死亡し、米軍・イラク軍の軍人4人が負傷した。
米国政府はこの攻撃を「カタイブ・ヒズボラ」によるものとして非難したが、同組織は否認している。米国は2日後、「カタイブ・ヒズボラ」に対する空爆を行い、少なくとも民兵25人が死亡、55人が負傷した。
こうした攻撃は、2日にわたって、イランの支援を受けたイラク民兵組織の支持者による暴力的な抗議行動を引き起こした。彼らは米国大使館の境界に押し寄せ、投石した。これを受けて米国政府は同地域に増援部隊を派遣し、イラン政府に対し、実力行使をほのめかすに至った。
1月2日、つまりソレイマニ司令官殺害の前日、マーク・エスパー米国防長官は、予想されるイラン支援下の民兵組織による攻撃から米国民の生命を守るため、予防的な行動を取らざるをえない可能性があると警告した。
「状況は変化した」と同長官は語った。
(翻訳:エァクレーレン)

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