コラム:イタリア債務問題、EUが繰り出した「先制パンチ」
Lisa Jucca
[ミラノ 5日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 欧州連合(EU)がイタリアの債務拡大に警告を発し、より大きな戦いを招く恐れのある対立において、まずは先制パンチをお見舞いした。
欧州委員会は、イタリアの過剰な債務が前例のない制裁措置を正当化してもおかしくないとの見解を表明。ただいわゆる「是正手続き」を始めるには、EU加盟各国政府の支持が必要で、イタリア側にも反撃の余地がある以上、今後両者がにらみ合ったまま決着がつかない状況になりそうだ。
欧州委はユンケル委員長の体制が10月に終わる前に、イタリアに対して具体的な手を打とうとしている。イタリアの昨年の債務の対国内総生産(GDP)比が132%超に達したので、こうした行動は正当だと主張する。
確かにこの比率は、EUが上限と定めている60%をはるかに上回っており、イタリアはユーロ加盟以降一度も上限を守ってこなかった。もっとも欧州委が本当に恐れているのは、このままでは来年までにイタリアの債務の対GDP比が135%になってしまう点にある。
イタリアの経済規模を考えれば、2兆ドルを超える公的債務を維持できるのかや、デフォルト(債務不履行)が起きた場合に通貨ユーロに及ぶ影響を心配するのはうなずける。EU加盟各国が7月の会合で是正手続きを支持すれば、欧州委は今後何年にもわたってイタリアの財政政策を監視し、同国が言うことを聞かなければ厳しい制裁をちらつかせることになる。
イタリアにも言い分はある。今年の成長率は、欧州経済の予想外の減速や米国がもたらした貿易摩擦のためにプラス0.2%が関の山と予想される。そこで財政緊縮を強制すれば、逆効果を生むだけだ。さらにイタリアの財政赤字の対GDP比は、EUが設定した上限の3%より低い。昨年は2.1%まで縮小し、今年も2.5%は超えない見込みとなっている。
もしイタリアが象徴的な意味合いの、例えば20億─30億ユーロ程度の予算圧縮を提案すれば、恐らく制裁は回避できる。
しかし同国の複雑な政治情勢がそうした措置の妨げになる。コンテ首相やトリア経済財務相は妥協したいかもしれない。一方、ユーロ懐疑派で極右「同盟」を率いるサルビーニ副首相が今や連立政権で最も発言力を持ち、支持率を一段と上げるためにあえてEUとの対決を望むのではないか。
その上、EUもイタリア政府も同国の債務問題を解決するための明快な計画を持ち合わせていない。欧州委の警告によって即座にEUとイタリアが正面衝突することはないとしても、いずれぶつかり合うのは避けられない。
●背景となるニュース
・欧州委は5日、イタリアの債務が拡大しているのでEUの財政ルールに違反しているとの見解を表明し、「是正手続き」を開始すべきだと勧告した。
・EU加盟国は2週間かけて勧告を検討し、7月のEU財務相会合で最終承認された場合、具体的な手続き入りが可能となる。
・イタリアの債務の対GDP比はギリシャに次いでEUで2番目の高水準。昨年は、前年の131.4%から132.2%に高まり、欧州委の見通しでは来年は135.2%に達する。
・イタリア10年国債利回りは5日午後に上昇し、ドイツ10年国債との利回り格差も拡大した。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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