コラム:伊の銀行不良債権処理が進展、欧州銀行同盟を後押し

コラム:伊の銀行不良債権処理が進展、欧州銀行同盟を後押し
 8月6日、イタリアの銀行の不良債権問題の前途には、光明が見えている。写真はイタリアのバンカ・モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナ本店。2017年10月撮影(2019年 ロイター/Stefano Rellandini)
Lisa Jucca
[ミラノ 6日 ロイター BREAKINGVIEWS] - イタリアの銀行の不良債権問題の前途には、光明が見えている。各行が積極的な処理を進めた結果、不良債権総額はピークだった2015年の3410億ユーロ(3820億ドル)から半減した。貸出債権の不良化ペースも緩やかになってきた。欧州連合(EU)欧州委員会のフォンデアライエン次期委員長にとっては、銀行同盟の完成への道筋を整備する上で、ハードルが1つ少なくなる。
4年前の時点では、イタリアの銀行が抱える不良債権は、ユーロ圏にとって脅威とみなされていた。それ以降、銀行による不良債権処理は大きく進展した。PwCによると、18年末の段階で利払いが滞っている債権の総額は1800億ユーロまで減少した。一方で貸倒引当金は10年前よりも高水準だ。
不良債権処理は今も続いている。先週にはインテーザ・サンパオロが、額面30億ユーロ相当の返済される見込みが乏しい債権(貸出債権の区分で下から2番目)を、不良債権投資の専門会社プレリオスに売却することに合意した。手続きが完了すれば、インテーザの不良債権額は09年を下回る。イタリアの銀行業界全体でも、現在取り掛かっている推定360億ユーロの不良債権の処理が終わると、総額は1440億ユーロと10年前より80億ユーロ多い程度に縮小する。
ただ保有する不良債権の規模は、銀行によってばらつきがある。国内トップ2のインテーザとウニクレディトの不良債権比率は、いずれも欧州銀行監督機構(EBA)が目標としている5%弱の達成が視野に入っている。半面、政府の管理下にあるバンカ・モンテ・デイ・パスキ・ディ・シエナや、多くの中小行は、より大幅な処理が必要だ。イタリア経済が停滞していることも、プラスにはならない。
それでもイタリアの銀行業界は、数年前に比べれば環境は改善しているように見える。過去10年で2回の景気後退に見舞われたことで、最も体力の弱い銀行はもはや淘汰された。生き残り組はより強くなり、次の景気悪化局面でも破綻しにくいだろう。資本バッファーが分厚くなったため、今後の損失をカバーする際に株主への依存も低下しそうだ。
EU全体の預金保険制度を創出する案について、ドイツや北欧諸国が反対した理由の1つは、イタリアの不良債権を巡る切迫した事態だった。この制度は、欧州銀行同盟を完成させるためには不可欠だ。
フォンデアライエン氏は、そうした目標を実現するにはなお多くの試練に直面している。しかしイタリアの銀行のバランスシートはもはや主な障害にはならない。
●背景となるニュース
*PwCが7日に公表したリポートによると、18年末のイタリアの銀行の不良債権額は1800億ユーロで、ピークだった15年末の3410億ユーロから減少した。今年初め以降の発表・報告ベースの問題債権取引額は約360億ユーロに達するという。
*イタリア銀行協会(ABI)のデータでは、18年末のイタリアの銀行の不良債権比率は8.7%で、22年までに5%前後に低下すると見込まれている。
*イタリア最大のリテール銀行、インテーザ・サンパオロは7月31日、返済される見込みが乏しい債権をおよそ20億ユーロで不良債権投資の専門会社プレリオスに売却すると発表した。売却額は、この債権の額面の66%前後になる。
*インテーザはこの取引によって不良債権額を318億ユーロと、09年以降で最低の水準にできる。プレリオスは、さらに同行の67億ユーロの不良債権の管理も手掛ける。
*欧州中央銀行(ECB)銀行監督委員会トップのアンドレア・エンリア氏は6月14日、ユーロ圏の大手行の不良債権比率が3.8%となり、EBAが設定した目標の5%を下回ったと明らかにした。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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