焦点:イタリア改憲否決が警鐘、欧州が迎える「試練の年」

焦点:イタリア国民投票が欧州に鳴らす警鐘、来年は試練の時
 12月5日、EU域内では来年、オランダ、フランス、ドイツと相次いで国政選挙を迎える中で、イタリアまでも国内政治に手足を縛られる展開となってしまった。写真は、憲法改正の是非を問う国民投票で反対派の人たち。ローマで撮影(2016年 ロイター/Tony Gentile)
[ベルリン 5日 ロイター] - イタリアのレンツィ首相が進退をかけた憲法改正を問う国民投票は、明確な否決という結果となった。これは、欧州のポピュリズム(大衆迎合主義)勢力が主張する欧州連合(EU)とユーロへの拒否とは言えないが、ブレグジット(英国のEU離脱)や米大統領選のトランプ氏勝利などの問題について、信頼を得られるような対応策を急いでいた欧州各国の首脳にとっては大きな逆風だ。
EU域内では来年、オランダ、フランス、ドイツと相次いで国政選挙を迎える中で、イタリアまでも国内政治に手足を縛られる展開となってしまった。来年のフランス大統領選の中道・保守派候補で、当選すれば少なくとも5つの項目を国民投票に付すと約束しているフランソワ・フィヨン氏にとっても、今回のイタリア国民投票結果は事態が楽観できないと警鐘を鳴らす形になった。
より目先の問題として、金融市場の反応は比較的落ち着いていたとはいえ、資本不足に悩むイタリアの銀行と同国経済の先行きに関する懸念が深まったことが挙げられる。この点は、欧州中央銀行(ECB)が8日に開く理事会で資産買い入れプログラムの今後のあり方を決める上で影響を及ぼす可能性もある。
ドイツ経済研究所(DIW)のマルセル・フラッシャー所長は、国民投票結果について「今すぐイタリアが危機に戻ることはない。だが銀行が大きな問題を抱え、公的債務が膨大で、失業率の高さに直面している国にとって時間が失われたことを意味する。改革が遅れる重大な危険が存在する」と述べた。
<試練の時>
イタリアの国民投票結果を踏まえ、フランスの極右政党、国民戦線のマリーヌ・ルペン党首はツイッターで「国民がレンツィ氏とEUを拒絶した」と発言。英国民投票でEU離脱運動を推進してきた独立党のナイジェル・ファラージ氏は「憲法改正よりもユーロについての意見という側面が大きいように見受けられる」と語った。
しかし英国と違って、イタリア有権者の大多数はEUとユーロを支持している。またレンツィ氏が属する民主党以外の有力党派はこぞって憲法改正に反対するよう呼びかけていた。
つまり国民投票の否決は、同日実施されたオーストリア大統領選で極右候補が敗北したことと同じように、EUや既成政党への拒否とは言い難い。むしろ単にレンツィ氏が政治的に大きな計算ミスをしたという方が実態をとらえている。
ローレッサ・アドバイザリーのニコラス・スピロ氏は、旧来型の党内クーデターで政権の座についた首相がまだ景気後退からの脱却に苦労している国で国民投票を行えば、思わしくない結果が出ると予想できるだろうと指摘した。
もっとも今回が反EUの動きではなかったからといって、安心はできない。来年3月にはオランダで国政選挙が実施され、メイ英首相がEU離脱を正式通告して2年にわたる交渉が始まるとみられる。
そして4月にはフランス大統領選の第1回投票が控える。世論調査ではフィヨン氏とルペン氏の一騎打ちが想定されており、フィヨン氏は財政や地方自治、年金制度、移民、議員定数といった問題で国民投票を行う意向だ。
このフランス大統領選は、イタリア国民投票とは比べ物にならないほど欧州とその政治の主流勢力の運命を決定づける。アンスティテュ・モンテーニュのドミニク・モワシ氏は「大統領選は欧州にとって重大な試練になる。ルペン氏に対応するために、フィヨン氏はもっと中道寄りになる必要があるかもしれない。もう少し伝統主義者としての要素を薄めるべきだろう」と述べた。
(Noah Barkin 記者)

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