焦点:超長期金利が再上昇、日銀の「一番重要」は何か

焦点:超長期金利が再上昇、日銀の「一番重要」は何か
 6月25日、国債市場で超長期金利が再び上昇してきた。7月からの国債増発や海外勢の需要減退に対する懸念が背景とみられているが、鍵を握るのは、日銀の動きだ。写真は都内の日銀本店。5月22日撮影(2020年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)
伊賀大記
[東京 25日 ロイター] - 国債市場で超長期金利が再び上昇してきた。7月からの国債増発や海外勢の需要減退に対する懸念が背景とみられているが、鍵を握るのは、日銀の動きだ。過度な金利低下による副作用の軽減などを目的に超長期債オペのオファー額を減らしてきたが、イールドカーブ低位安定のため3年ぶりに増額に動くのか──。日銀にとって今「一番重要」なのは何かを、市場は見極めようとしている。
<2つの黒田発言>
黒田東彦日銀総裁の16日の金融政策決定会合後の会見は市場を惑わせた。超長期金利に関し、方向感が異なる2つの発言をしたためだ。
1つは、「超長期金利の過度な低下は、保険や年金等の運用利回りを過度に低下させ、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある」という発言だ。これからすると、超長期金利は下がり過ぎない方がいいということになる。
もう1つは、「新型コロナウイルス感染症の影響で債券市場の流動性が低下しているもとで、国債増発が見込まれている状況を踏まえると、債券市場の安定を維持し、イールドカーブ全体を低位で安定させることが大事な状況だ」との発言だ。この発言からは、金利は低位安定が望ましいと受け止められる。
超長期金利は低位安定が望ましいが、下がり過ぎは良くない、と考えれば矛盾はないのだが、マーケットでは「7月の国債増発に向けて、日銀がどういう対応をしていくかが分からなくなった」(国内銀行ストラテジスト)との声が多く聞かれた。
<「一番重要」なのは>
果たしてどちらを黒田総裁は重視しているのか──。注目されているのは「一番重要」という言葉だ。黒田総裁は、2016年9月の「総括的な検証」の認識は変わってないとした上で「足元で一番重要なのは、イールドカーブ全体を低位で安定させること」と話している。
やはりわずかながらも増額に動くのではないのかと、野村証券のシニア金利ストラテジスト、中島武信氏はみる。「7月から日銀は中短期債のオペを大幅に増加させるだろう。オペ全体の整合性を取るために超長期債も1回100─200億円程度増額するのではないか」と予想を示す。
今のところ日銀内では「長いトレンドで見ればまだ(水準は)低い」と、最近の超長期金利上昇を大きく問題視する向きは少ない。
一方、7月からの国債大量増発で長期金利に上昇圧力がかかることに警戒感も漂う。政府の国債発行増に合わせて自動的に買い入れを増やすことはしないが、イールドカーブの形状の適切な形成のためには、超長期国債買い入れ増額も「排除はしない」(関係筋)との考えだ。
市場の価格形成機能を尊重するという総括検証の考え方を維持しつつ、コロナ禍で景気に大きな下振れ圧力がかかる中、当面は金利の低位安定により重心を置いたオペ運営をする構えをみせている。
<日銀の「存在感」>
日銀オペが超長期債マーケットに占める割合は大きいわけではない。「残存期間10年超25年以下」と「同25年超」の国債オペは月2回ずつ。月間の買い入れ額は月2400億円と600億円の計3000億円だ。月3兆9600億円の中期債や月2兆円の長期債とはレベルが違う。
また、プラス金利の超長期債に対する投資家需要は厚い。財投機関債や、地方債などを含めたプラス金利の債券は、今年度約50兆円が償還される。一方、それらの債券の発行は20兆円半ば。超長期債も20兆円半ばの発行となるため、需給的には日銀の買い入れがなくても、バランスがとれている。
しかし、超長期債の発行額は今後さらに膨らむ可能性がある。超長期債の発行額は7月から月2兆3500億円になるが、新型コロナの影響で税収不足が深刻化すれば第3次補正予算の編成が必要になる。また今回の国債増発は短期債や中期債が中心だが、来年度以降、借り換えていく中で、徐々に安定度の高い長い年限の債券に振り替えられていくとの見方も出ている。
こうした中で、日銀が超長期債に対して、どう動くかを市場は注目している。占有率が低いとしても、超長期債市場は、良くも悪くも日銀の動向に左右されやすい。アライアンス・バーンスタインの債券運用調査部長、駱正彦氏は、日銀が買い入れを増やす姿勢を示せば、金利のスティープ化はいったん止まるとみる。
6月30日に発表される「7月の国債買い入れ月間予定(オペ紙)」を含め、日銀の次の動きを市場は固唾をのんで待つことになりそうだ。
(取材協力:木原麗花、坂口茉莉子 編集:青山敦子)

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