焦点:日銀、危機対応に集中 景気刺激の国債購入増見送りの公算

焦点:日銀、危機対応に集中 景気刺激の国債購入増見送りの公算
新型コロナウイルスの感染拡大の終息が見通せない中、日銀は27日からの金融政策決定会合で、企業の資金繰り支援策の強化を中心に議論する見通しだ。写真は2017年9月、都内の日銀本店で撮影(2020年 ロイター/Toru Hanai)
和田崇彦
[東京 22日 ロイター] - 新型コロナウイルスの感染拡大の終息が見通せない中、日銀は27日からの金融政策決定会合で、企業の資金繰り支援策の強化を中心に議論する見通しだ。経済の急減速や原油価格の暴落で2%の物価目標へのモメンタムが揺らいでいるものの、日銀は企業倒産の増加や金融システム不安を未然に防ぐ観点から危機対応に集中する。
全国で緊急事態宣言が出される中で、消費を喚起し、景気を刺激する政策を打ち出すのは得策ではないとの判断から、国債購入増やマイナス金利の深掘りは見送られる公算が大きい。しかし、日銀内では、経済の停滞が長期化すれば大規模な緩和策が必要になるシナリオも意識され始めている。
<抜け落ちた「物価モメンタム」>
当面、新型コロナウイルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる――。4月9日、日銀本店。感染防止のためテレビ会議形式で行われた支店長会議の冒頭、黒田東彦総裁はこう述べた。
1月の同会議では「『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる恐れが高まる場合には」躊躇なく追加緩和を打ち出すと述べていたが、9日は2%の物価目標にもモメンタムにも触れず、新型コロナ感染の行方が政策判断のカギになることを示した。新型コロナの感染拡大で、プラス圏を維持してきた需給ギャップはマイナス転換するリスクが高まり、原油価格も暴落している。しかし、日銀内では「物価モメンタムより、いまは危機対応に集中すべきだ」(幹部)との声が目立つ。
日銀は3月の決定会合で、社債・CPの買い取り増、新型コロナ感染拡大の打撃を受けた企業向けの新しいオペの創設を打ち出した。しかし、4月に入って緊急事態宣言や休業要請が出され、企業を取り巻く環境は一段と悪化している。黒田総裁は9日のあいさつで「企業の資金繰りは悪化している」と言明。27日からの金融政策決定会合では、企業の資金繰り支援の徹底が議論の柱になる見通しで、社債・CPの買い取り額の再増額や、新オペでの適格担保の拡大が選択肢となりそうだ。
<経済停滞、長期化なら「大規模緩和」>
一方、休業要請が出され、外出の自粛が求められている状況下で、景気を刺激する政策は取りづらいとの見方が日銀内では目立つ。国債の購入目標の引き上げやマイナス金利の深掘りは見送られる公算が大きい。
ただ、現在の局面では2%物価目標へのモメンタムが政策のドライバーではなくなったものの、政府とのアコードにも明記された日銀の2%目標自体は揺らがない。
経済活動の停滞が長期化することへの警戒感も日銀内で高まっている。企業倒産が急速に増加し始めれば雇用や所得に波及し、日銀が描いてきた所得から支出への「前向きの循環メカニズム」が動揺しかねない。のみならず、倒産の増加で金融機関の財務基盤がき損されれば、金融システム不安に発展しかねない。
低金利が持続する中で、金融機関はより高い金利を求めて、ミドルリスク企業や不動産賃貸業、海外ではエネルギー関連など相対的に信用力の低い企業に融資してきた。日銀は21日の金融システムリポートで、これらのセクターは「景気悪化に対して総じて脆弱」と指摘。新型コロナの世界的流行で実体経済の大幅な落ち込みが長期化すれば、「実体経済・金融の相乗的な悪化」につながる可能性があると警鐘を鳴らした。
このため、日銀内には、金融システム不安を未然に防ぐため、年後半にも大規模な金融緩和を打ち出す必要が出てくるかもしれないとの見方が出ている。
<不確実性が高い年後半の回復シナリオ>
日銀は、28日に「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」を公表し、20年度の実質国内総生産(GDP)の見通しをマイナスに下方修正するとみられる。
20年後半にパンデミックが終息し、拡散防止措置を徐々に解除することが可能になると想定する国際通貨基金(IMF)のシナリオを踏まえ、今年後半に経済が緩やかに回復し始めるとの見通しを示す公算が大きい。
もっとも、黒田総裁が支店長会議で強調した通り、新型コロナの終息時期は不確実性が高く、ボードメンバー間でも見解が分かれそうだ。展望リポートでは、新型コロナの感染拡大による実体経済への影響や終息時期について、非常に不透明感が強く日銀のシナリオも不確実性が大きいことを強調する見通しだ。

取材協力:木原麗花 編集:石田仁志

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