アングル:ホテル株に警戒感、日韓関係悪化でインバウンド需要に懸念

アングル:ホテル株に警戒感、日韓関係悪化でインバウンド需要に懸念
 8月8日、ホテル株に警戒感が出ている。日韓関係の悪化でインバウンド需要に減少の兆しが出てきたためだ。写真は都内で2017年7月撮影(2019年 ロイター/Kim Kyung Hoon)
[東京 8日 ロイター] - ホテル株に警戒感が出ている。日韓関係の悪化でインバウンド需要に減少の兆しが出てきたためだ。韓国からの訪日客は全体の約4分の1を占め、中国に次いで2番目に多い。一部の企業では売上高見通しの下方修正も見られ始めており、対立が長期化すれば悪影響が広がる可能性がある。
<市況悪化に警戒>
藤田観光<9722.T>は6日、2019年12月期の連結売上高予想を従来予想の720億円から703億円に17億円引き下げた。WHG事業(ワシントンホテルとホテルグレイスリー)において、競合との価格競争や、最近の国際情勢によるインバウンド集客への影響が約5億円の減収要因になるとした。
同社では、福岡を中心とした西日本エリアや、北海道の札幌でキャンセルや予約の伸びの鈍化がみられている。首都圏でも、韓国からのインバウンドが多い周辺ホテルが値下げしてでも稼働を上げたいと宿泊価格を引き下げ始めるため、価格競争に巻き込まれる間接的な影響が出てくるという。
藤田観光のインバウンド需要の構成は韓国が13%程度。中国の45%に比べるとボリューム感は小さいが「影響が出ていることは事実だ」(広報担当)という。中国の広州に中国で2番目となる拠点を開設して誘客を強化しているが、それをもってしても減収をカバーしきれない見込みだ。
市場では「そのホテル自体に韓国観光客が少ないとしても、他のホテルでキャンセルなどが出て、周辺の相場が下がってしまうと価格の引き下げに追随せざるを得ない。需給バランスの緩みによる市況への影響の方が心配だ」(国内証券)との声が出ている。
一方、外食事業やホテル事業を手がけるロイヤルホールディングス<8179.T>からは、ホテルよりも空港にある店舗に直接的な影響がある、との声が出ていた。福岡空港の国際線ターミナル内にあるレストランや売店などで売り上げの減少がみられるという。
<今年上期、韓国の観光客は5年ぶり減>
大韓航空は、日本との外交関係悪化に伴い需要が減少しているため、釜山─札幌線の運航を9月3日から停止すると発表した。大韓航空系列の格安航空会社(LCC)、ジンエアーも「反日ムードが続き、予約率に影響が出るようであれば、日本路線を調整する可能性も排除できない」(広報担当)[nL4N24U2HK]としている。
日本政府観光局(JNTO)がまとめたデータによると、2018年の訪日外客数は前年比8.7%増の3119万人。国・地域別では、中国が838万人(全体の約26.8%)で最も多く、韓国が753万人(同24.1%)で続いた。しかし、19年上期(1─6月)の訪日韓国人旅行者数は同3.8%減。2014年以来5年ぶりに上期の減少となった。
足元で進行する円高や世界的な景気減速懸念なども、インバウンド需要で潤ってきたホテル業界にとっては逆風だが、この先、国内的な懸念もある。「10連休」の反動だ。
観光庁が旅行各社からヒアリングしてまとめた国内旅行の総取扱高は4月が前年同月比9.1%増、5月が同2.8%増と、春の10連休の需要を取り込んで全体的に伸びた。6、7月分までは公表されていないものの、梅雨明けの遅れや天候不順などの影響も加わり、全般的に伸び悩むとの懸念が出ている。
国内証券の関係者は「需要の先食いがあったのは間違いなく、夏休みの需要の取り込みには相当頑張らないと厳しいと、ある旅行代理店の首脳から聞いた。国内が冷え込む中、韓国からの訪日観光客が減少すればホテル業界にとって『ダブルパンチ』になりかねない」と指摘する。
9月下旬にラグビーワールドカップが開幕すれば世界中から観客が来日してホテルの稼働率も上昇しそうだが、一過性の要因でもある。日韓関係の対立によって、インバウンド集客の2トップを担う韓国からの来客の低迷が続けば、ホテルをはじめとしたインバウンド関連株の上値を継続的に圧迫する可能性がある。

杉山健太郎 編集:伊賀大記

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