コラム:物言うファンド、女性経営者を標的にする訳

James Saft
[23日 ロイター] - 女性経営者が率いる企業は、アクティビスト(物言う株主)として活動するヘッジファンドの標的になりやすい。これは単なる気のせいではなく、最新の研究に裏付けられた事実だ。
根底にある理由はまだ明らかではないが、どうやらアクティビストが活動する状況下においては、女性CEO(最高経営責任者)の方が、株主の代弁者として、より忠実に行動する傾向があるようなのだ。
また、こうした物言うファンドの投資対象となった企業の女性経営者は、自身が不利な状況に陥ることも多い。これもまた真実だ。
彼女らの報酬総額の減少幅は、男性経営者の場合より大きく、男性にトップの座を奪われる可能性も高いことが、米レンセラー工科大学のビル・フランシス、チャン・ウー両氏と、クリーブランド州立大学のインジ・シェン氏の研究で明らかになった。
物言うヘッジファンドは、自ら株式を取得した企業に対して、新たな戦略の導入を迫り、場合によっては経営陣の交代さえ要求する。こうしたファンドの運用資産は1200億ドル(約13兆1500億円)を上回っており、金融市場において非常に大きな存在感を示している。こうしたファンドが今年の上半期に、大手上場企業に対して仕掛けた件数は前年同期比で6割以上も増えている。
相当数のアクティビストファンドが、女性が経営する企業に投資している。2015年には著名投資家カール・アイカーン氏が、当時のウルスラ・バーンズCEOが率いた米ゼロックスの株式を購入。同じくアクティビスト投資家として知られるネルソン・ペルツ氏も、インドラ・ヌーイ氏がCEOを務める米ぺプシコに照準を定めた。
今回の研究は、これまで逸話が作り上げた印象を裏付けるものだ。
「網羅的なデータを活用することで、まず、物言うヘッジファンドが実際に、女性が経営する企業を格好のターゲットと見なしていることを確認した」と同研究の執筆者は記している。
女性が経営する企業が、任意の年にアクティビスト投資家のターゲットとなる確率は5.7%で、男性経営者の3.7%に比べて54%も高い、と同研究データは示している。このデータは、2003年から2014年における、2000件以上のヘッジファンドによるアクティビスト投資を検証したものだ。
現時点で、フォーチュン500社企業のうち、女性がCEOを務めているのは約5.2%だ。
生の数値データだけでは、どれほど女性経営者が物言う投資家に狙われているかを過小評価されがちだ。業種と特性が似通った企業を経営する男女のCEOを同一条件で比較した場合、アクティビスト投資家の攻撃対象となる可能性は、女性経営者の方が実際に78%も高いことが分かった。
物言うヘッジファンドの経営者は、その99%が男性である点に留意すべきだろう。2016年にフォーチュン誌に掲載された記事によれば、こうしたヘッジファンド経営者のうち、女性はアイデス・キャピタルのディアンヌ・マッキーバー氏のみだった。
<ガラスの崖か>
必ずしも信ぴょう性が高いわけではないが、女性経営者の方が、アクティビストファンドの攻撃を受けやすい企業を押しつけられる可能性が高い、という説がある。つまり市場や当該企業自身の変化によって、厳しい経営陣の交代期を迎えているような企業だ。
こうした考えは「ガラスの崖」と呼ばれることがある。女性の経営幹部レベルへの昇進を阻んでいるとされる「ガラスの天井」になぞらえた表現だ。
この点について今回の調査では、経営トップが男性から女性に交代した企業と、男性から男性に代わった企業とを比較。さらに企業特性ごとに条件を揃えてみた。比較して、企業特性を揃えてみても、やはり女性CEOはアクティビスト投資家の標的になりやすいことが分かった。
もう1つ今回の調査で判明したことは、アクティビスト投資家が動き始めたと報じられた時点で、女性が経営する企業のほうが業績の伸びが大きく、短期的な株価の上昇も大きかったという点だ。このため、ヘッジファンド側が純粋なジェンダー差別を抱いているとは言い切れないとも指摘されている。
恐らくそうなのだろう。しかし、だからといって、女性が経営する企業の株売買を手掛ける投資家が偏見を抱いていることを否定するものではない。
女性経営者の方が、物言う投資家との交渉に際して、より建設的で成熟した(そして私的金融取引をあまり伴わない)アプローチをとっているという点は、事実だと言えそうだ。この点は資本を管理する立場としては非常に好ましいが、恐らくそのことが、部外者にとって、「標的」としての魅力が増しているのだろう。
「女性経営者のほうが、物言うヘッジファンドに対して防衛姿勢を固める代わりに、コミュニケーションをとり、協力する可能性が高いことが明らかになった。特に、こうしたファンドが女性経営者を標的とする際、敵対的な戦術に訴える可能性は低く、取締役を送り込み、返済を求め、経営側とのコミュニケーションのために書簡を用い、委任状争奪戦よりも和解を求め、最終的に、かれらのすべての目標、もしくはその一部の達成に成功する可能性は高い」と、同調査は結論付けている。
女性CEOは取締役会を開催する回数が多く、外部のアクティビスト投資家を妨害するための、いわゆる「ポイズンピル(毒薬条項)」を採用する傾向も低い。
少なくとも筆者にとっては、どれも皆、優れた経営手法のように思われる。
忘れてはならないのは、アクティビストは株価パフォーマンスの改善については非常に優れたアイデアを持っていることが多いが、持続的な価値創出という点での実績は何とも言えないという点だ。彼らのアイデアの良し悪しはともかく、それはCEOに対する潜在的な脅威となる。
女性経営者は個人的に、アクティビスト投資家との関係において、男性経営者よりうまく立ち回れず、報酬の減額も大きく、成果報酬の目標は厳しくなり、辞任勧告を突きつけられることも多い。こうした全般の状況ゆえに、女性CEOの少なさは単に不公正の表われというだけでなく、彼らが奉仕する投資家にとっても不利な状況を生んでいるのである。
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。(翻訳:エァクレーレン)
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