焦点:月例報告基調判断下げ先送り、増税延期につながる表現回避

焦点:月例報告基調判断下げ先送り、増税延期につながる表現回避
 3月20日、政府は3月の月例経済報告で、景気の基調判断の引き下げを事実上先送りした。写真は東京都内で2月撮影(2019年 ロイター/Kim Kyung-hoon)
[東京 20日 ロイター] - 政府は3月の月例経済報告で、景気の基調判断の引き下げを事実上先送りした。景気認識の引き下げが消費増税の延期につながった過去もあるだけに、明確な「意思表示」を避けたかたちだ。ただ、政府内には輸出・生産判断の引き下げの大きな要因になった中国経済の動向を含め、海外経済の先行きを警戒する声もあり、国内景気は「視界不透明」なままだ。
<内需支えに回復の表現維持>
基調はしっかりしている――。20日の関係閣僚会議で内閣府幹部はA4版13枚の資料を携え、こう力説した。貿易協議を巡る米中対立が中国経済の減速を招き、「輸出や生産の一部に『弱さも』みられる」と、現状判断は下向きに変えた。
ただ、輸出は国内総生産(GDP)の18%に過ぎず、さらに輸入を差し引いた「純輸出」では、成長率への寄与度はほぼゼロという論拠を背景に、これまでの「緩やかに回復している」との基本認識そのものは、維持するとの見方で押し切った。
内需の柱となる個人消費や企業の設備投資が増加している現状を踏まえれば、「回復基調が途切れたと判断するのは時期尚早」と、別の政府関係者は話す。
内閣府は、2015年秋まで「上方修正」「下方修正」「据え置き」のいずれかで景気の基調を示していたが、当時の甘利明・経済再生担当相が『白黒判断』に異論を唱え、景気の基調と、現状とを切り離すようになった。
今回、内閣府が輸出、生産の一部で弱さを認め、16年3月以来3年ぶりの下方修正となったのは「総括判断」との位置付け。基調そのものの見方を崩さなかったことについて、ニッセイ基礎研究所の斉藤太郎経済調査室長は「(基調判断の見直し)判断を先送りした。海外経済は減速局面で、下振れのリスクは今後も残り続ける」と指摘する。
<不透明な中国経済の先行き>
政府内にも国内景気の先行きに懸念を示す声もある。ある政府関係者は「輸出・生産の下方修正の主因になった中国経済の先行きが、本当に回復するのかどうか。そこが不確かなままでは、回復の2文字をいつまで継続できるのかわからない」と話す。
別の政府関係者は「将来の悪化の可能性も含め、先行きの不透明感は強い」と語った。
民間エコノミストの1人は、29日に発表される2月鉱工業生産の動向がカギを握ると予測する。2月の生産、3月の予測値を含め、1─3月期の平均のレベルが下げ止まりを示せば、「回復」を残した政府の見通しに近づく。
しかし、1─3月期のレベルが、10─12月期を大幅に下回るようなら、1─3月期の国内総生産(GDP)の前期比伸び率がマイナスになる可能性が高まり、景気後退への懸念を意識することになるだろうとみている。
<注目される消費増税との関連>
後者のシナリオが実現するなら、政府が表明している今年10月の消費税率引き上げの判断にも影響を及ぼしかねない。
また、月例経済報告は、政府の経済財政政策の土台になる先行指標とされ、安倍晋三首相が14年11月と16年6月に消費増税の延期を表明する前に、いずれも基調判断を引き下げた経緯がある。
政府関係者の1人は「安倍首相が『最大の経済対策』と位置付ける19年度予算案の審議中に、景気腰折れが鮮明になるのは得策ではない」と話す。
強弱の表現が入り混じった「月例文学」の先に何が待ち受けているのか、中国経済を含む海外経済の動向が、大きな影響を与えそうだ。

マクロ政策取材チーム 編集:田巻一彦

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