焦点:統治強化で「脱ゴーン」目指す日産、ルノー統合交渉など難題も

焦点:統治強化で「脱ゴーン」目指す日産、ルノー統合交渉など難題も
 3月28日、日産自動車の「ガバナンス(統治)改善特別委員会」は公表した最終報告の中で、カルロス・ゴーン前会長(写真)の不正の根本原因は「前会長への権限集中にあった」と結論づけた。写真はパリ近郊のブーローニュ=ビヤンクールで昨年2月撮影(2019年 ロイター/Gonzalo Fuentes)
[東京 28日 ロイター] - 日産自動車<7201.T>の「ガバナンス(統治)改善特別委員会」は27日に公表した最終報告の中で、カルロス・ゴーン前会長の不正の根本原因は「前会長への権限集中にあった」と結論づけた。同社は会長職廃止や社外取締役による監督強化など委員会の提言を受け、「脱ゴーン」経営体制の確立をまず急ぐが、その先には仏ルノーとの経営統合交渉など難題が待ち構える。
自動運転やコネクテッドカーなどかつてない競争で生き残るには、迅速な意思決定も欠かせない。適切なガバナンス運営と強いリーダーシップの両立がどう進むのか、市場からの厳しい目が注がれそうだ。
<「誰も異を唱えず」「ブラックボックス化」>
ゴーン前会長の不正行為を一言で言うならば、「典型的な経営者不正」――。しかも「私的利益を追求」している点で、「会社のため」を不正の正当化根拠としていた過去の上場会社での経営者不正(粉飾決算・不正会計)と根本的に異なると委員会は批判した。
ガバナンスの問題点の検討にあたり、委員会が認定した主な事実、その根本原因から、前会長の「傍若無人」ぶりが生々しく描かれた。
「日産の破綻を救った救世主」として「神格化」、「個人崇拝」されたゴーン前会長の活動は、社内で「不可侵領域」と化したと記述された。
さらに前会長がルノーという「大株主のトップを兼任したことで、その傾向はさらに強くなった」と明記。「異を唱えた人材が左遷・退社させられている」といった声も複数あり、前会長に「誰も異を唱えない企業風土が醸成された」と指摘した。
加えて糾弾されたのは、強力な権力を背景にした「密室的な組織運営」の実態だ。前会長は、不正を発見し得る一部の管理部署の権限を前代表取締役のケリー氏など特定少数の者に集中させ、当該部署を「ブラックボックス化」したと報告書は断じた。
その結果、私的利益の追求の探知が難しい体制ができあがり、けん制機能が働かなかったと、「権力乱用」の構図を解き明かしている。
今回の報告書では、抽象的な指摘にとどまらず、具体的な描写が多方面に及んでいることも特徴だ。
前会長は、取締役会をできるだけ短時間で終わらせたがり、昨年までは平均開催時間が「20分足らず」だったと明らかにした。
質問や意見が出るのを嫌い、意見などを述べた取締役や監査役を会議後に呼び出すなどして威圧し、「うるさい監査役」は再任しなかったとも明記した。「何も言わない監査役を探してこい」と言われた者もおり、取締役会は活発な議論を行う雰囲気ではなかった、と表現されている部分もある。
<社外取締役の増員・役割強化、会長職廃止を提言>
こうした根本原因を解消するため、提言は38項目に及んだ。提言の主な狙いは、経営の監督と業務の執行に関する明確な切り離し。「指名委員会等設置会社」への移行(現在は監査役会設置会社)、社外取締役を増やして監督機能を強化、「会長職の廃止」も提言した。
榊原定征・共同委員長(元経団連会長)は27日夜の会見で、会長職廃止は「相当、思い切った提言」と語り、あくまで執行と監督の分離が目的だと説明した。
当初、ルノーによる日産会長指名を日産が強く警戒していたが、これに対する配慮ではないかとの見方を否定したかたちだ。
指名委員会等設置会社については、今年6月までに移行すべきとし、「指名」「監査」の各委員会の委員長、委員の過半数は社外取締役(独立性を有する)とする。
ゴーン前会長が、特に私的利益を追求していたとされる「報酬」に関する委員全員を社外取締役とすべきだと提言。前会長1人が20年近くも経営トップにいたことも不正の原因の1つにあり、指名委員会は役員の解選任のほか、「適切な後継者計画」を策定することも盛り込まれた。
取締役の過半数を社外取締役にし(現在は取締役9人中、社外は3人)、会長が兼任していた取締役会議長も社外取締役が担い、透明性の向上を図る。代表執行役は「利益相反のリスクがある」(西岡清一郎・共同委員長)としてルノー・三菱自動車<7211.T>の取締役、執行役、その他の役職員を兼任すべきではないとした。
自動車産業コンサルティング会社・カノラマジャパンの宮尾健代表は、社外取締役の増員・役割強化について「監督機能強化に加え、ゴーン派が社内にまだいる場合は、社外取締役が中立的な立場になり得るので社内が崩れにくい」と評価した。
ただ、社外取締役にもマイナス面があり、「車づくりなどをあまり分かっていない人が就くと、現場に寄り添った判断が難しいこともある」という。
現場を理解しつつ経営陣も厳しくチェックできる人を選べるかどうか、独立性ゆえのマイナス面をどう解消するかが鍵になるとみている。
<不透明な経営統合交渉の行方>
委員会は、その目的が個人の犯罪事実、公的・法的責任を追及するものではないため、不正を防げなかった西川廣人社長らの経営責任を追及していない。
しかし、社長自らがこれまでに「ガバナンスの問題を招いた責任」を認めており、会社を軌道に乗せた後、いずれ身を引く意向を示している。となれば、西川社長の後任も見据えた安定した経営体制が必要になる。
関係者によれば、新体制では榊原氏を社外取締役として迎え、取締役会議長に充てる人事案が浮上している。ただ、榊原・取締役会議長になっても、日仏間の仲介役にはなれるが、ゴーン前会長の果たしていた「機能」を全て引き継ぐのは難しそうだ。
たとえば、電気自動車の推進などの大胆な意思決定は、日産・ルノー連合を率いてきた前会長だからできたとの見方があるのも事実。未曽有の変革期に直面している自動車業界で勝ち残るには、前会長のような「とがった意思決定をしていかないと難しい」(宮尾氏)。
ガバナンス問題は、今回の最終報告で一応の区切りを迎えたが、最も難しい課題の1つとみられる日産とルノーの資本関係の見直しは棚上げされたまま残っている。
委員会では、当初から触れないことになっていたが、その理由などをあらためて27日の会見で問われた西岡氏は「会社と株主の問題。委員会が介入できるものではない」と答えた。
英フィナンシャル・タイムズ(27日付電子版)は、ルノーが日産との経営統合交渉を1年以内に再開する意向だと報じた。
西川社長は28日朝、経営統合交渉について「今は協議の対象ではない」とこれまでの主張を繰り返し、1年以内に交渉を再開する可能性に関しては「今すぐの問題ではない」と話した。また、委員会の最終報告については「厳しい提言を重く受け止め、真摯にやっていきたい」と述べた。
奇しくも3月27日は、日産がルノーと資本提携で合意してから丸20年という節目の日だった。榊原氏は、20年を機に「ガバナンス体制をしっかり構築し、新しい日産に再生していただきたいと願っている」と話していた。
的確なガバナンス機能の発揮と機動的な経営判断をどう両立していくのか。新生日産の真価が問われるのは、これからだ。

白木真紀、梅川崇 編集:田巻一彦

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab