コラム:北朝鮮による米本土攻撃の脅威は本物か
Andray Abrahamian
[2日 ロイター] - 北朝鮮のミサイル実験は大局的な見地から眺める必要がある。憂慮すべき事態には違いないが、米国本土に危険が差し迫っているわけではない。
私は過去2回、緊張の最中に北朝鮮国内にいたことがある。同国が核実験を行って制裁を受けた2013年春と、16年春だ。私は北朝鮮の人々が「やり過ぎだ。もうおしまいにしよう」と言うのを2度耳にした。この悲痛な声から分かるのは、北朝鮮がいかに国民の臨戦モードを維持しているかだ。
過去の「ミニ危機」の際、私は韓国にもいたことがあるが、国民の関心はさほど高くなかった。
韓国人がテレビ画面の前に集まり、北朝鮮によるミサイル・核実験のニュースを見守る写真をご覧になったことがあるだろうか。あれらはほぼ決まってソウル駅で撮られた写真で、人々は画面に食い入ってはおらず、単に電車を待っているだけだ。
ところが米国人はピリピリしている。北朝鮮は7月4日、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」の発射実験を行い、専門家はミサイルがアラスカやハワイに届きかねないと話した。3週間後の再発射実験では米国本土が射程圏内に入るとされた。明らかに、北朝鮮は米国に核攻撃を仕掛ける能力の獲得に近付きつつある。
だから、ロサンゼルスの人に会うたびに「金正恩(あるいは、『ほら、なんとかって言う人』)はLAに核爆弾を落とそうとでもしているのか」と聞かれるのも無理はない。
私は今年、ほとんどの時間をカリフォルニアで過ごしている。ニュースは常に北朝鮮のミサイル実験を報じ、テレビに出る識者はこの問題をとうとうと語り、米大統領はツイッターに投稿している。私が北朝鮮を訪れていると聞いて人々は意見を求めてくるが、私は「心配するな」と答えている。
北朝鮮は実際に戦争を引き起こさないよう、非常にうまく計算して挑発行動を行っている。指導部はこれまでも、衝突が起これば間違いなく体制が崩壊することを重々承知していた。専門家によると、北朝鮮の核兵器保有は主に抑止力を狙ったものだ。2013年に成立した法律、その他の公告では、先制ではなく報復用の兵器を開発していることが明示されている。
実態として、金正恩氏は米国に先制攻撃を仕掛ける能力を持っていない。米国に核攻撃を行って撃破されずに済むほどの軍事力を備えておらず、今後も備えられないであろうことを指導部は自覚している。
とはいえ、北朝鮮の軍事開発によって新たな脅威が頭をもたげているのも事実だ。
北朝鮮は米国が真に受けないよう、もっと慎重な物言いをする必要がある。米国の軍事演習が「危険な頂上決戦」を引き起こすとか、米国が「レッドラインを越えた」などと、正気で言っているのだろうか。正気なら、どんな行動をとる用意があるのか。米国が真意を理解してくれなければ、その代償は高くつく。
私に質問をぶつけてくるロサンゼルスの人々は、北朝鮮の脅し文句にたいてい「もし」あるいは「そうなれば」という但し書きが付いていることも理解すべきだ。例えば先週は、「もし米国が金正恩氏の打倒を試みるなら、北朝鮮は米国本土を攻撃する」と宣言した。米国を「焦土」に化すといった脅しには、通常こうした条件がついている。
国境や陸海において、限定的な小競り合いはこれまでもあり、全面戦争に発展する可能性も常に存在した。しかし現在が過去と違うのは、ミサイル攻撃が米本土に及ぶ可能性が出てきたことだ。怖いのは、米国が先手を打とうと従来より素早く行動を起こし、北朝鮮は全面戦争や体制転覆に発展し始めたと考え、「(核兵器を)使わなければ負けるまで」だと追い詰められる可能性だ。
もう1つ心配なのは、緊張が高まった時に惨劇につながるような技術的、あるいは人的エラーが起こる恐れである。旧ソ連では1983年9月26日、米国がミサイルを発射したとする早期警戒システムの誤警報を軍将校が見抜いたが、形式通り指導部に報告していれば報復攻撃は避けられないところだった。今日、似たようなシステムの間違いが起こった場合、北朝鮮の兵士らはこの将校ほど柔軟に考えられず、違った行動をとるだろう。
朗報もある。64年間対立し続けてきた北朝鮮と米国は、全面戦争を避けることが上手になっている。しかも米国には他に選択肢がある。この地域に適切な軍事力を維持することもその1つだが、そうした防衛姿勢を北朝鮮のほか、同盟国の韓国と日本に対してきちんと伝えることも重要だ。同盟諸国との良好な政治・経済関係を維持することも必要になる。
どの対応にもある程度のリスクはつきまとう。米国が北朝鮮の軍事開発を遅らせるために二次的な制裁を強化する場合、北朝鮮軍との関係が疑われる中国の企業や銀行を調査することになり、中国との摩擦が起こりかねない。米国が軍事演習で譲歩する代わりに北朝鮮が開発を中止するという合意を結べば、政治的にも戦略的にもリスクが生じる。
米国はまた、北朝鮮の経済と社会の改善を支えることにより、長い目で見て同国の行動が改善するよう働きかけることもできる。しかしこれは北朝鮮との交流や結び付きを強めることになり、制裁との両立が難しい。
どの選択肢にも手っ取り早い解決策はないだろう。しかし少なくとも当面カリフォルニア市民は、今にも北朝鮮のミサイルが飛んでくるのではないかと脅える必要はない。
*筆者は豪マコーリー大学の名誉フェローで、北朝鮮の人々に経済政策や企業家精神について訓練を施す非営利組織、チョソン・エクスチェンジに協力してきました。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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