焦点:ミサイル発射映像にマスクなし、北朝鮮が新型コロナ制御誇示

焦点:ミサイル発射映像にマスクなし、北朝鮮が新型コロナ制御誇示
 3月23日、北朝鮮はこのほど軍事演習を行い、週末には短距離弾道ミサイルと推定される飛翔体を発射。国営メディアが伝えた兵士らの映像は2月末以来、初めてマスクを着用していなかった。写真はミサイルの発射に立ち会ったとされる金正恩委員長。3月22日、朝鮮中央通信が公開(2020年 KCNA)
Josh Smith
[ソウル 23日 ロイター] - 世界の注目が新型コロナウイルスの感染拡大に集中しているここ数週間、北朝鮮はミサイル開発と軍事演習を一層強化し、国内での感染問題の制御を改めて誇示している。
北朝鮮は国内で感染者が1人も出ていないと主張しているが、海外の専門家らは懐疑的だ。
しかし北朝鮮はこのほど軍事演習を行い、週末には短距離弾道ミサイルと推定される飛翔体を発射。国営メディアが伝えた兵士らの映像は2月末以来、初めてマスクを着用していなかった。
同国はまた、感染阻止のために外国人に対して実施していた隔離措置をほぼすべて解除したと発表して専門家を驚かせた上、4月初めに大規模な最高人民会議(国会)を開くとも宣言した。
北朝鮮を観察するウェブサイト、NKニュースのソウル在住アナリスト、レイチェル・ミンヨン・リー氏は「北朝鮮が春の最高人民会議を敢行することに少し驚いている」と言う。
ただリー氏は、「北朝鮮メディアは過去2週間、政府が新型コロナ問題の制御に自信を深めていることを示唆する方向にシフトしているようで、この変化と今回の決定は整合的だ」と述べた。
しかしシンクタンク、国際危機グループ(ICG)のシニアアドバイザー、ドュイエオン・キム氏によると、金正恩朝鮮労働党委員長のメッセージのほとんどは、国民向けだけを「一点集中」のように意識したものだ。
「彼は国民に自分の自信と強さを見せつけようとしている。それは、自分が事態を制御しており、体制が戦略的な目的を遂行して正常に機能している、ということだ。ところが実際には、彼は新型ウイルスを巡る国家的危機をまったく制御できていない」とキム氏。「彼は平壌市民をハッピーにしておく必要があり、北朝鮮の無敵ぶりを示そうとしている」と話した。
<非常に深刻>
国営メディアは、政府がいかに新型コロナ感染防止に真剣に取り組んでいるかをひっきりなしに報じている。
例えば23日付の労働新聞は、地方の党幹部が感染防止のための全国的な命令に背いて宴会を主催し、処罰されたと報道。社説でも命令順守の重要性を論じた。
外国の有識者からは、北朝鮮の独裁体制は感染防止に有効な制限措置を課すのに適している上、国民1人当たりの医師の数が多いとの指摘もある。
しかし複数の援助団体は、北朝鮮の医療制度は慢性的に資源不足で、日常的な医療ニーズに応えられないことも多いと指摘。新型コロナの感染が急拡大すれば対処が難しくなるだろうとしている。
韓国に住む脱北者は「北朝鮮の親戚から聞くところでは、状況が非常に深刻なことだけは間違いない」と語る。「さもなければニュースでこの問題をこれほど声高に語らないだろう。住民にはだれが亡くなったのかを知る方法もない」
キングズ・カレッジ(ロンドン)の朝鮮半島専門家、レイモン・パチェコ・パルド氏はツイッターで、新型コロナ感染者が皆無だと強調したり、最高人民会議を決行したり、ミサイル発射試験を行ったりするのは、平常ぶりを誇示するのが狙いだと指摘。「金正恩氏は、すべてが順調であるとのイメージを描き出すのに必死だ」とした。

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