アングル:韓国コスメが触発か、北朝鮮が国産化粧品にテコ入れ

Minwoo Park
[ソウル 9日 ロイター] - 国際的な経済制裁の締め付けが強まる中、北朝鮮では自給率を高めようと、輸入品ではなく国産の化粧品を買うよう美容意識の高い中間所得層の女性に推奨している。
北朝鮮を建国した金日成(キム・イルソン)主席の時代から、国産化粧品の推奨は政治戦略の一部だったが、海外で教育を受けた孫の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の時代になってより力が入れられるようになった。
高麗人参やかたつむりなど、独特の天然成分を取り入れた韓国発の化粧品が国際的に人気を博していることも、この取り組みに拍車をかけたと、脱北者や北朝鮮専門家は話す。
しかし、品質の問題や、核開発に対する国際制裁で外国からの材料調達が困難になっていることもあり、まだ実は結んでいない。
金正恩委員長は以前、国産化粧品を軽んじる発言をしている。
「外国産のアイライナーやマスカラは水に入っても落ちないが、国産品だとあくびをしただけでアライグマみたいな目になってしまう」
日本に拠点を置く朝鮮新報によると、金委員長は2015年に平壌の化粧品工場を訪れた際、こう発言した。
だが金委員長はその後、妻を伴って複数の化粧品工場を訪れている。
今年初め、北朝鮮国営テレビ局KRTは、高級ブランドのシャネルの製品をやめて国産品に乗り換える女性が登場する平壌化粧品工場のビデオを放映した。
「国内に住む多くの外国人顧客が買い物に来る。シートマスクやリップクリーム、クレンジング用品が売れ筋だ」
平壌化粧品工場の販売員ヤン・スジョンさんは、昨年ロイター記者が平壌を訪問した際にこう話した。
シャネルはロイターの問い合わせに対し、北朝鮮には商品を輸出しておらず、売られているものは偽物か密輸品の可能性が高いと回答した。
<ファーストレディー効果>
北朝鮮は長年、国民の外見を統制してきた。染髪やブルージーンズ、英語が書かれた衣服などは、金委員長の父の金正日(キム・ジョンイル)総書記の時代に、西側からの影響を締め出すため禁止された。
だが金委員長が2011年に権力の座に就き、李雪主(リ・ソルジュ)夫人を伴って公の場に現れるようになってから、状況は変わった。
高麗大の北朝鮮専門家である南成旭(ナム・ソンウク)教授は、若いファーストレディーのショートヘアやカラフルなスーツが、北朝鮮の閉鎖的な社会の枠組みの中での「自己表現の欲望」に火をつけたと話す。
「金正日時代には、ファーストレディーの役割は全くなかった。だが金正恩の時代になって李雪主氏が登場し、政権の化粧品への関心も深まった」と、南教授は指摘する。
脱北者のカン・ナラさん(21)は、北朝鮮の非公式な市場経済の屋台骨である半合法の闇市場「ジャンマダン」で、韓国製化粧品を買っていたと話す1人だ。
「北朝鮮社会は厳しい統制下に置かれていて、真似できるスタイルは限られている。李雪主と牡丹峰(モランボン)楽団だけが、許されたロールモデルだ」
2014年に韓国に逃れ、現在はユーチューバーとして美容のヒントや北朝鮮文化について発信しているカンさんは、こう話した。
<新たな市場と限界>
ロシアメディアによると、平壌化粧品工場は5月、銀河水(ウナス)ブランドの化粧品の第一弾をモスクワの新しい店に出荷した。
韓国製化粧品をオンラインで売る「コリアン・ケア」というロシアの小売店は、昨年から北朝鮮製の化粧品を平壌から直輸入している。
ロシア人女性ら1万人以上の顧客がいる同店によると、北朝鮮製化粧品のセールスポイントは、天然原料を使い、保存料を最低限に抑えていることだという。
「新しい化粧品なら何でも好きだけれど、これは北朝鮮製だというのが興味深い」と話すのは、アロエベラの保湿剤とアンチエイジングのクリームを購入したマルガリータ・キセリョワさん(45)。「全体的にいって、品質には満足している」
だが、前出の南教授と韓国化粧品メーカーのアモーレパシフィックが北朝鮮製品64点を検査したところ、毒性がある可能性のあるメチルパラベンやプロピルパラベン、タルクが検出されるなど、7点に品質上の問題があった。
平壌化粧品工場は、ウナスブランドの製品は国際標準化機構(ISO)や、ロシア主導のユーラシア経済連合(EEU)の品質認証を取得しているとしているが、ロイターではこれを確認できなかった。
「新たな化粧品の開発には、輸入原料や物質が必要だが、現在の国連制裁は北朝鮮が化学製品を輸入することを禁じている。新製品の開発は困難だ」と南教授は言う。
ほとんどの北朝鮮人は、贈り物として買う場合は特に、より高価な韓国製品を好んでいると、北朝鮮情勢に詳しい経済専門家のカン・ミジン氏は言う。
「入手困難でも、婚約者へのプレゼントとして韓国製化粧品を買う人は多い。韓国製は、最高品質で富の象徴とみなされているからだ」と、同氏は話した。
(翻訳:山口香子、編集:宗えりか)

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