焦点:新型コロナ禍の経済さらに複雑化、主要中銀に原油急落の頭痛

焦点:原油急落、主要中銀にまた一つ頭痛の種
主要産油国のサウジアラビアがロシアと対立した結果、増産を決めたことで、原油価格は一夜にして30%程度も下落した。写真は米石油産業の始まりとなったドレーク油田の博物館で、2017年10月撮影(2020年 ロイター/Brendan McDermid)
[ワシントン/東京/フランクフルト 9日 ロイター] - 主要な中央銀行の懸念材料に、原油価格の急落という新たな項目が加わった。新型コロナウイルスの感染拡大で経済見通しが悪化する中、中銀にとって状況はさらに複雑化している。
主要産油国のサウジアラビアがロシアと対立した結果、増産を決めたことで、原油価格は一夜にして30%程度も下落した。消費者やエネルギーコストの大きい企業には追い風だが、中銀としては、ただでさえ物価目標に届いていないインフレ率がさらに低下する懸念があり、世界の金融市場にも新たなストレスが加わる。
中銀は、原油価格の変動は一時的な要因だとして政策決定に反映させないことが多い。しかしサウジの行動は、油価の低迷が長引くことを約束しており、中銀は突如として油価の動きを注視せざるを得なくなった。
米連邦準備理事会(FRB)にとって、油価の急落は先週実施した緊急利下げの効果が出る前から努力に水を差されたことを意味し、追加緩和が促される可能性もある。
ムーディーズ・アナリティックスの金融政策調査責任者、ライアン・スウィート氏は「エネルギー価格の下落は、FRBをさらに積極的な政策へと向かわせるはずだ」と語る。
FRB幹部らは、先週に0.5%幅で利下げし、状況によっては(数週間内と予想されている)追加利下げすることで、米国の設備投資を促進できたらいい、との考えを表明していた。
しかし米設備投資はエネルギー産業と結びついている割合が高く、昨今の油価水準でさえ掘削・探鉱投資は減少する傾向にあった。油価が下がれば、消費者は燃料費が減って懐が潤う面もある。しかし、新型ウイルスの感染拡大が心配で、隔離や封鎖の期間も長引く可能性がある現状では、それが他の消費に回る可能性は小さい。
オックスフォード・エコノミクスの上席米国エコノミスト、リディア・ブサワー氏は「消費者は浮いた資金を貯蓄するだろうから、米経済への影響は差し引きではマイナスとなる」と記した。
<通貨高と物価>
中銀幹部らは既に、新型ウイルス感染拡大による経済への悪影響が広がれば、行動を起こすと表明している。
原油市場が予期せぬ展開を見せたことで、そうした行動のスピードと規模も変わってきそうだ。比較的小規模な原油輸出国や、エネルギー企業が大きな借入比率で資金を調達している社債市場の一角にも緊張が走りかねない。
日本では円買いが殺到して円高が急速に進んだ。日本経済は輸出に依存しているため、短期的な経済見通しへの懸念も強まる。
欧州の当局者らは、油価下落は足元の経済成長を下支えする効果があると考えているのかもしれない。しかしユーロが継続的に上昇してインフレに下押し圧力がかかれば、欧州中央銀行(ECB)は新型ウイルス感染拡大による景気への影響以外にも、難題を抱えることになる。
コメルツバンクのアナリストチームは、油価の低迷が続けば「ユーロ圏のインフレ率は5月に、心理的に重要な0%に下がりかねない」と予想した。
米国の予想物価上昇率は既に急低下しており、FRBにとって悩みの種が増える可能性がある。9日の油価と米株価の暴落を受け、米債券市場が織り込む5年後の予想インフレ率は0.75%を割り込み、2009年以来の低水準となった。
(Howard Schneider記者、木原麗花記者、Balazs Koranyi記者)
*記事の内容は執筆時の情報に基づいています。

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