コラム:ロシアの減産拡大拒否、長期的にはOPECに恩恵
John Kemp
[ロンドン 6日 ロイター] - 石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非加盟国による連合体「OPECプラス」が6日開いた閣僚級会合で、ロシアは減産拡大を拒否した。サウジアラビアとOPECはこれに不満かもしれないが、長期的には両者の利益にもかなうはずだ。
生産を減らして石油価格を守るというサウジの戦略は、これまで機能しておらず、サウジは市場シェアを減らしつつ価格も下がるという二重の打撃を被っていた。
過去10年間、サウジはOPEC、そして近年ではOPECプラスの音頭を取り、減産を繰り返してきた。この間、石油価格はじりじりと下落し、サウジとOPECは米国など他の産油国に着実にシェアを奪われてきた。
過去8年間の世界3大産油国の生産量を比べてみよう。2008―09年の世界金融危機後の厳しい景気後退を経て、生産量が平時の水準近くに戻った11年第4・四半期を起点に比較する。
11年10―12月にサウジの原油生産量は日量平均970万バレル、ロシアは1040万バレル、米国は600万バレルだった。
8年後の19年第4・四半期、サウジとロシアの生産量はそれぞれ20万バレル前後(2%)しか増えていないのに対し、米国は680万バレル(114%)分も急増した。米国はロシアとサウジを抜いて世界最大の産油国になった。
<価格か量か>
短期的には、サウジは生産量の調整役としてある程度の市場支配力を行使し、価格と市場シェアのどちらを守るかを選べるだろう。
しかし中長期的には、OPECプラス以外の国々の供給力が高まり、サウジは他のどこの国とも同様に市場が決定した価格を受け入れざるを得なくなる。
「だれにも石油の価格は決められない。アラーの思し召しだ」。15年、当時のヌアイミ石油相はテレビインタビューでこう認めたものの、その後にもサウジとOPECは幾度も価格支配を試みては失敗した。
その代わり、OPECとOPECプラスによる生産抑制は米国のシェールオイル企業に何度も命綱を投げる格好になり、これらの米企業は苦境を生き延び、後に再び生産を拡大した。
<価格を守る>
過去10年の大半の期間、サウジは目先の価格防衛を優先した結果、長期的には生産が低迷して米シェールオイルの急増産を許した。
主な例外は14年半ばから16年末にかけての期間で、サウジのこの間、市場シェアを守って価格の大幅下落を看過する方針に切り替えた。
これに続く14―15年の石油価格急落は普通、生産量重視戦略の失敗例と見なされている。ヌアイミ氏に至っては16年に退任に追い込まれた。
しかし当時の価格急落は、それに先立つ期間の価格高騰によって14年半ばまでに大幅な供給過剰になった反動であり、不可避だったとみる方が適切だ。
過去10年間のうち、米国のシェールオイル生産が継続的に減少したのはこの油価低迷期だけだった。米国に対するサウジのシェア縮小が止まったのも、この時期だけだ。
つまり、サウジの価格維持政策によって最も恩恵を受けたのは米国のシェール企業だったということになる。もしも価格の急落が許されなければ、サウジは生産削減を余儀なくされていただろう。そして、それでもなお石油市場は15―16年に大きな供給過剰に陥っていただろう。
<新型コロナ後の再調整>
新型コロナウイルスの感染拡大は短期的に石油需要に大打撃をもたらすだろうが、その後に市場がバランスを調整するためには、原油生産量の増加が鈍るだけでなく消費量の伸びが加速する時期が必要になる。
米シェールオイルの生産を大幅に削減させるとともに、世界中で石油消費の小幅な拡大を促すには、価格の下落が引き続き最も効き目を発揮する。
石油在庫のだぶつきと価格下落を避けるためにOPECプラスが減産すれば、価格上の必要な合図が鈍り、バランス調整が長引くのは必至だ。
OPECプラスの減産幅が拡大すれば、米シェールオイル企業は守られ、一方で原油消費拡大を促す上での刺激効果は弱まる。これらがサウジ、ロシア、あるいは他のOPEC諸国とってどんな恩恵をもたらすのかは不明だ。
ロシアが減産拡大に反対したことは、OPECプラスではなく価格による市場調整を許すという決断だ。これは長期的には、ロシアだけでなくサウジとOPECにとっても正しい判断だ。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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