アングル:米中摩擦で豪レアアース採掘企業に「棚ぼた」

アングル:米中摩擦で豪レアアース採掘企業に「棚ぼた」
12月17日、ウェスタンオーストラリア州グレートビクトリア砂漠の辺境に位置する死火山の周囲に広がるマウントウェルド鉱山から見れば、米中間の貿易紛争は遠い世界の出来事に思える。写真は7月、マレーシアにあるライナスの工場で、レアアースのパックを手にする従業員(2019年 ロイター/Lim Huey Teng)
[マウントウェルド(オーストラリア)/東京 17日 ロイター] - ウェスタンオーストラリア州グレートビクトリア砂漠の辺境に位置する死火山の周囲に広がるマウントウェルド鉱山から見れば、米中間の貿易紛争は遠い世界の出来事に思える。だが、マウントウェルド鉱山を保有するオーストラリア企業ライナスにとって、米中間の紛争は実にありがたい話である。この鉱山は、iPhoneから兵器システムに至るまで、あらゆる製品に必須の要素であるレアアース(希土類)に関して、世界有数の埋蔵量を誇るからだ。
米中間の貿易紛争が過熱するなかで、今年、中国が米国向けのレアアース輸出を制限する可能性を示唆したことにより、米国は新たな調達先の確保を急いでいる。それがライナスの株価を急上昇させたのである。
レアアース部門で成功を収めている唯一の非中国企業として、ライナスの株価は今年に入って53%上昇した。先週は、米国が計画する国内レアアース処理プラントの建設に関して入札に参加する可能性が報じられ、同社の株価は19%もの急騰を見せた。
<「ありがたかった」中国の動き>
レアアースは、電気自動車の生産には必要不可欠であり、風力発電用タービンのモーターを動かす磁石にも使われ、コンピューターその他の消費者向け製品でも同様である。一部のレアアースはジェットエンジンやミサイル誘導システム、人工衛星やレーザーなどの軍用機器にも欠かせない。
今年、ライナスのレアアース事業が絶好調となった原因は、中国によるレアアース産業に対して米国が懸念を強めたことによるものだ。だが、このブームの基礎は約10年前に築かれていた。別の国、つまり日本が固有の「レアアース・ショック」を経験していたからだ。
2010年、中国は日本向けのレアアースの輸出割当を制限した。領土問題をめぐる両国の対立が背景にあったが、中国側では、輸出規制は環境への配慮によるものだと説明した。
自国ハイテク産業の脆弱性を懸念した日本は、供給確保のため、マウントウェルド鉱山への投資を決めた。2001年にライナスがリオティントから購入した鉱山である。
政府からの資金協力に支えられ、日本の商社である双日は、この鉱山で採掘されるレアアースに関して2億5000万ドル規模の契約を締結した。
当時ライナスの執行役会長だったニック・カーティス氏は、「中国政府の動きはありがたかった」と語る。
また双日との供給契約は、ライナスがマレーシアのクアンタンで計画していた加工工場の建設資金という点でも追い風になった。
日本の経済産業省・資源エネルギー庁でレアアースその他の鉱産資源を担当している大東道郎・資源燃料部鉱物資源課長によれば、こうした投資により、日本のレアアースに関する対中国依存度は3分の1低下したという。
日本との契約によりライナスの事業の基礎も築かれた。この投資のおかげで、ライナスは鉱山の開発を進め、マウントウェルドでは不足している水・電力の供給が豊富なマレーシアにおける加工工場を獲得した。契約の条件はライナスにとって有利なものだった。
マウントウェルドでは、レアアースは酸化鉱の状態で採掘され、マレーシアに送られてさまざまなレアアースに分離される。その残さいは中国に向かい、さらなる処理を受ける。
ライナスのアマンダ・ラカーズ最高経営責任者 (CEO)はロイターへの電子メールのなかで、「(マウントウェルドの豊かな埋蔵量は)株式・社債による当社の資金調達能力の基盤となっている」と書いている。「マウントウェルドの資源にマレーシアの加工工場で付加価値を乗せるのがライナスのビジネスモデルだ」という。
カラン&カンパニーでアナリストを務めるアンドリュー・ホワイト氏は、ライナスの株式について「買い」の評価を下す理由として、「(精錬能力を備えた)中国以外では唯一のレアアース生産企業であるというライナス社の戦略的特質」を挙げている。「大きな差を生んでいるのは、精錬能力だ」
<ターゲットは米国>
ライナスは5月、テキサス州の株式非公開企業ブルーラインとの間で、マレーシアから輸送する材料からレアアースを抽出する処理プラントの開発に向けた協定を締結した。ブルーラインとライナスの幹部らは、コストと処理能力の詳細については公表しないとしている。
ライナスは13日、米国防総省が米国内の処理プラント建設に向けた提案を募集したことに対して、入札参加の意向を示した。このプロジェクトを落札すれば、ライナスは、テキサス州内の既存のプラントを、重レアアース用の分離施設へと発展させる追い風を受けることになろう。
オースビル・インベストメント・マネジメント(シドニー)の資源アナリスト、ジェームス・スチュアート氏は、テキサスの処理プラントによって年間収益が10─15%上乗せされる可能性があると期待している、と述べている。
スチュアート氏によれば、入札で最も有利な立場にいるのはライナスだという。マレーシアで処理した素材を米国に輸送するのは簡単で、テキサス州のプラントを国防総省の目的に合わせて転換することも比較的低コストで済むが、他社はなかなかこれに太刀打ちできないからだ。
「米国が予算の配分先としてどこが最善かを考えているとすれば」と同氏は言う。「ライナスは確かにかなり優位に立っている」
<価格圧力>
とはいえ、課題は残る。中国はレアアースの生産に関しては大差で首位に立ち、ここ数カ月は生産量を拡大しているが、電気自動車メーカーからのグローバル需要は減少しており、価格は下落している。
レアアースの価格低下はライナスの収益を圧迫し、代替的供給源の開発に資金を投じようという米国の決意も試されることになる。またマレーシアの加工工場も、低レベル放射性廃棄物の処分を懸念する環境保護団体による抗議行動をたびたび受けている。
ライナスは、国際原子力機関のお墨付きを得て、マレーシアの加工工場とその廃棄物処理は環境的に見て健全であると述べている。
またライナスの事業は3月2日で失効するライセンスに基づいている。ライセンス更新は確実という見方も広がるが、マレーシアが現行より厳しいライセンス条件を法制化する可能性があることから、多くの機関投資家は二の足を踏んでいる。
こうした懸念を浮き彫りにするかのように、17日、加工工場における増産申請に対するマレーシア当局の許可が得られなかったことをライナスが発表したことを受けて、同社の株価は3.2%下落した。
とはいえライナスは、これまで開拓してきたニッチ分野に関して大きな長期的ポテンシャルを見出している、と述べている。
ラカーズCEOは先月開かれたライナスの年次株主総会で、「当社は今後も、中国以外の顧客に選択されるサプライヤーであり続ける」と述べている。
(翻訳:エァクレーレン)

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