アングル:ロヒンギャ難民12万人超、高まるスー・チー氏批判

[ダッカ/シャムラプール(バングラデシュ) 5日 ロイター] - イスラム系少数民族ロヒンギャに対する暴力が続くミャンマーでは、この10日余りで約12万5000人が隣国バングラデシュへ避難する事態に発展。沈黙を続けるアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相に対し、世界から圧力が高まっている。
国連のグテレス事務総長は安全保障理事会に対して、民族浄化と地域不安定化のリスクを警告。ミャンマーでの暴力が「人道主義的大惨事」に陥る可能性があるとの懸念を表明した、異例とも言える書簡のなかで、抑制と冷静さを強く求めるよう促した。
ロイター記者は5日、新たな数百人規模の疲れ切ったロヒンギャ族が、ボートで国境近くのバングラデシュの村シャムラプールに到着するのを目撃した。この大脱出の終わりが今なお見えないことを示している。
国際移住機関(IOM)は緊急に人道支援を増やす必要があると指摘。新たに到着するロヒンギャ族支援のために、IOMと関連機関は向こう3カ月で1800万ドル(約19.5億円)の資金不足に直面していることを明らかにした。
インドネシアのルトノ外相は、バングラデシュ首都ダッカで同国のハシナ首相と会談後、インドネシア政府はバングラデシュを支援する用意があると表明。「この人道危機を終わらせなくてはならない。繰り返して言いたい。この人道危機を終わらせなくてはならない」と、前日にミャンマーを訪問していた同外相は記者団に語った。
事の発端は、ミャンマー北西部ラカイン州で8月25日、ロヒンギャ族の武装勢力が警察署や軍基地を相次いで襲撃したことだった。その後に発生した衝突や軍の反撃により、これまでに少なくとも400人が死亡、バングラデシュに避難するロヒンギャ族の大脱出を引き起こした。
ミャンマー当局は、家屋に火を放ち市民を殺害したとして、ロヒンギャ族の武装勢力を非難。その一方で、人権監視団体やバングラデシュに逃れたロヒンギャ族は、ミャンマー軍が放火や殺害を行い、彼らを追い出そうとしていると証言する。
グテレス国連事務総長は5日、ミャンマーで起きている暴力が民族浄化と言えるかと記者から聞かれると、「われわれはリスクに直面しており、そうならないよう願う」と答えた。
「地域を不安定化しかねない状況を生み出しているこの暴力を必ず終わらせるよう、ミャンマーのあらゆる当局に求めたい」とグテレス氏は語った。
仏教徒が多数を占めるミャンマーに暮らす約110万人のロヒンギャ族をどう扱うかは、スー・チー氏にとって最大の試練となっている。長年迫害を訴えてきたロヒンギャ族のために沈黙を貫く同氏に対し、欧米諸国からは非難の声が上がっている。
ミャンマーは、治安部隊が「テロリスト」に対する正当な作戦を遂行していると主張している。
東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国であるミャンマーに圧力をかけるため、他のASEAN加盟国がインドネシアの後に続く可能性を、バングラデシュのハシナ首相の政治顧問、H・T・イマム氏は指摘する。
マレーシアはすでにミャンマーの大使を呼び出し、暴力への不満を表明した。マレーシアのアマン外相は声明で、「ロヒンギャ族に対する長年にわたる暴力と差別に関する問題は、より大きな国際的な場に持ち込まれるべきだ」と訴えた。
ロヒンギャ族への暴力は大虐殺だと主張するトルコのエルドアン大統領は、スー・チー氏に対し、暴力はイスラム世界にとって大きな懸念であり、外相をバングラデシュに派遣すると伝えた。
大きなロヒンギャ族コミュニティーを抱えるパキスタンも「深い苦悩」を表明している。
<限界の難民キャンプ>
ロヒンギャ族の武装勢力が治安施設を襲撃し、ミャンマー軍が大規模な反撃に出た昨年10月以降、約21万人のロヒンギャ族がバングラデシュに避難している。
シャムラプール村に到着した避難民と地元住民らによると、計数千人を乗せた数多くのボートが4日と5日に到着したという。
ロイター記者は、ニワトリなどごくわずかな荷物とともにボートから降り立つ男性、女性、子どもたちを目撃した。
「軍が家々に火を放った」と、持ち物が入った袋を手にした農民のサリム・ウラーさん(28)は言う。「夜が明けて私たちはボートに乗った。母と妻、子ども2人も一緒だ。ボートには40人乗っていた」
多くが病気やけがを抱える新たな避難民によって、これまで数多くの難民を支援してきた支援団体やコミュニティーのリソースは限界の域に達している。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の報道官ビビアン・タン氏によると、バングラデシュのある難民キャンプは収容者数が「最大限」に達しており、他の施設も限界に近いという。
「われわれはできる限りのことをしているが、さらなるリソースを見つけなければならないだろう」
バングラデシュは、ミャンマー軍が国境付近で活発な動きを見せていることを懸念しており、自国の領土が侵害されるなら苦情を申し立てると、内務省当局者は語った。
バングラデシュの国境保安官によると、ミャンマー側で5日、爆発音が2回聞こえたという。その前日にも2回聞こえており、ミャンマー軍が地雷を仕掛けているとの憶測が広がっていた。
少年1人が国境付近で左足を失い、治療のためバングラデシュ側に運び込まれ、また別の少年も軽傷を負ったと同保安官は述べ、地雷の爆発である可能性があると語った。
ミャンマー軍は爆発についてコメントしていないが、ロヒンギャ族の武装勢力が「世界の注目をさらに集める」ため、首都ネピドーやヤンゴン、マンダレーを含むミャンマーの都市で爆弾攻撃を計画しているとの声明を5日発表した。
(Simon Lewis記者、Krishna N. Das記者 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)

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