アングル:NZ噴火、責任はどこに 被害訴訟は「予見可能性」が焦点

アングル:NZ噴火、責任はどこに 被害訴訟は「予見可能性」が焦点
 ニュージーランドのホワイト島噴火では、ロイヤル・カリビアン・クルーズ社が所有するクルーズ船の一部乗客が犠牲になった。同社に責任があるかどうかは、噴火が「予見不能」な自然災害かどうかにかかってくる可能性がある。写真は北部ファカタニで13日撮影(2019年 ロイター/Jorge Silva)
[12日 ロイター] - ニュージーランド北島沖の火山島ホワイト島噴火では、ロイヤル・カリビアン・クルーズ社が所有するクルーズ船の一部乗客が犠牲になった。同社に責任があるかどうかは、噴火が「予見不能」な自然災害かどうかにかかってくる可能性がある。これが海事案件に詳しい弁護士の見立てだ。
噴火が起きた9日、クルーズ船「オベーション・オブ・ザ・シー」号の乗客が観光ツアーでホワイト島を訪れていた。まだロイヤル・カリビアンを提訴する動きは出ていないが、法律専門家によると、今後、負傷者や犠牲者遺族が米国の裁判所に訴えを起こす見込みだ。
当時島にいたのは47人で、8人が亡くなったと正式に発表された。20人以上は重度のやけどで治療中。ニュージーランド軍は、現在も行方不明で恐らく死亡したとみられる残る8人の遺体回収作業を継続中だ。
ロイヤル・カリビアンの乗船券には、同社が自然災害や戦争、テロなどによる死亡ないし負傷、または財産の喪失に責任を負わないと記されている。このためマイアミの法律事務所ベーカー・ドネルソンの弁護士ロバート・クリッツマン氏は、同社は噴火が誰にも合理的に予想し得ない異例の出来事だと主張する公算が大きいとの見方を示した。
かつてノルウェージャン・クルーズライン社の顧問を務めたクリッツマン氏は「火山が噴火したとすれば、それは自然現象で、いかなる関係者にも過失がないのは明らかだ」と話した。
ロイヤル・カリビアンは、行方不明の乗客についてや、ホワイト島観光のリスクを乗客に伝えたかどうかについては回答しなかった。ただし、電子メールで「われわれはこの悲劇的な人的犠牲に哀悼の意を持っている。厳しい局面にある家族へのサポートとサービスを続けていく」と述べた。
訴訟になった場合、主な争点はロイヤル・カリビアンが何を知り、また知っておくべきだったかと、火山活動増大の兆候に関してどういった情報を乗客に伝えたかになるだろう。
ネルソン・アンド・フランケルの弁護士で乗客側代理人のカルロス・リナス・ネグレット氏は「(噴火前に)火山性微動や地震が複数回あり、それはモニターされている。全てはロイヤル・カリビアンがどんなことを知っていたか、さらにいつそれを知ったか次第だ」と指摘した。
ロイヤル・カリビアンはウェブサイトで、ホワイト島を世界有数の活発な火山だと描写し、ガスマスクを装着すれば、噴煙や沸き立っている酸性の火山湖といったドラマチックな活動をより間近で見られるとうたっている。
複数の法律専門家の話では、この種のタイプの上陸観光ツアーでは、クルーズ船所有会社は雇ったツアー運営会社に責任を転嫁しようとする。もっともロイヤル・カリビアンは、ホワイト島の観光ツアー運営会社を明らかにしていない。
乗客側としては、訴訟になればロイヤル・カリビアンが観光ツアー運営者をじっくり審査する適切な注意義務を怠ったと証明しなければならないと何人かの弁護士はみている。
ここに加わる難題が、噴火は予見できなかったとの主張を覆すことだ。
ノルウェージャン・クルーズラインは、2005年の大波によるクルーズ船損傷事故では、この予見不能の言い分が認められ、集団訴訟を免れることができた。規制当局が、同社の行動に問題はなかったと結論付けたためだ。
ロイヤル・カリビアンも、16年に米東部沖でクルーズ船が大嵐に巻き込まれた問題で集団訴訟を起こされた際に、同社は嵐のリスクを知っていたという乗客側の批判を無効にしようとして、予見できない自然災害だったという弁論を用いた。
今回に関しては、訴訟が起こされれば、ロイヤル・カリビアンがサイトに掲載したホワイト島観光ツアーのドラマチックな紹介をどう解釈するか、が焦点になりそうだ。法律専門家によると、乗客側は、大きな災害が発生する可能性を同社が承知していたと立証する材料にするという。
これに対して同社が、乗客はさまざまな危険について完全に情報提供を受け、適切な安全装備を受け取っていたと反論してもおかしくないだろう。
(Tom Hals記者)

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