焦点:ロシアが「違法」民兵に医療支援、軍事作戦への動員実態

焦点:ロシアが「違法」民兵に医療支援、軍事作戦への動員実態
 ロシアの民兵が海外での軍事ミッションに加わり、同国上層部から間接的な支援として医療の提供を受けていたことがわかった。写真はロシア国旗とクレムリン。2019年2月、モスクワで撮影(2020 ロイター/Maxim Shemetov)
Maria Tsvetkova
[サンクトペテルブルク 7日 ロイター] - 昨年10月末、ロシアのサンクトペテルブルク市内のある診療所の裏庭で、民間軍事会社の指揮官だったという包帯姿の人物がロイター記者にこう語った。「ロシア政府の権益を守るために国際テロ組織と戦っていた」。同氏の腕には複雑骨折の治療に使われる金属製の固定器具が装着されていた。
負傷の詳細については口が重いこの人物は、アレクサンダー・クズネツォフ氏。ロイターの取材によると、同氏は海外での戦闘にも従事するロシア系民間軍事会社「ワグナー」の一員で、リビアでの戦闘中に負傷した攻撃部隊の指揮官だった。
ロシアでは、正式な軍隊に属さない市民が民兵として武力紛争に参加することは違法だ。そして、同国政府はこうした民兵がリビア及びシリアを含む国外での戦闘を肩代わりしている、との指摘を否定し続けている。
しかし、現実には、ロシアの民兵は海外での軍事ミッションに加わり、同国上層部から間接的な支援として医療の提供を受けていた。この診療所の存在がその実態を裏付けている。
<政府側は関与を否定>
この診療所が開設されたのは2010年。保有企業は大手保険会社のAOソガズ(SOGAZ)だ。同社がロシア全国で展開している系列民間医療施設の1つで、ウラジミール・プーチン大統領との人脈を持つ人物が共同オーナー兼経営者となっている。
同診療所が国外で負傷したロシア軍民兵への医療支援の場となっていた事実は、治療を受けた民間軍事会社社員を知る3人の人物、診療所職員、記者による目撃、そして法人記録から明らかになった。
ワグナーの元戦闘員によれば、ソガズの診療所は遅くとも2016年にはワグナー戦闘員向けの治療を開始していた。彼は負傷した他の民兵5~6人とともに、ここ数年、同じ診療所で治療を受けていると話した。別のワグナー社員もシリアで重傷を負った後、同診療所で治療を受けた。どちらのケースでも医療費を負担する必要はなかったという。
ロイターなどのメディアがすでに報じているように、ロシアの民兵はシリア及びウクライナでひそかに正規軍を支援して戦闘に参加している。その民兵を募集しているのはワグナー・グループなどの民間軍事会社だ。
かつてワグナーに所属していた2人の元民兵によれば、同社に所属する戦闘員はリビアにも配備され、東部の軍閥ハリファ・ハフタル氏を支援していたという。ハフタル氏は、トリポリに置かれた国際的に承認されたリビア政府を相手に戦っている。
しかし、ロシア政府は民兵の投入を否認しており、ウクライナやシリアで戦っているのは義勇兵であると説明する。
プーチン大統領は、ロシアの民間軍事会社について、治安任務を担当しているだけで、政府や軍とも何ら関係はなく、戦闘参加によってロシア法に違反しない限り、どの国においても彼らが働く権利はある、と語った。
「西側メディアの報道を信じるのか。何でも信じてしまうのか」。プーチン氏は昨年12月19日の記者会見で、リビアにロシアの民兵が存在するかと質問した記者に、こう問い返した。
<プーチン氏との関係>
公式データベースに登録された企業情報によれば、この診療所の最高責任者であるブラディスラフ・バラノフ氏はAOノメコ(Nomeko)という医療関連企業でも最高責任者の座にあるが、プーチン氏の長女はこの企業の共同創業者であり、取締役でもある。ソガズのCEO代理はミハイル・プーチン氏であり、地元メディアによれば、プーチン氏の従兄弟の息子だという。ロシア政府は、ミハイル・プーチン氏が大統領の遠い親戚であることを認めている。
さらにプーチン氏の別の従兄弟の息子であるミハイル・シェロモフ氏とともに、プーチン氏が友人であることを公言しているユーリ・コバルチュク氏とその妻も、間接的にソガズの株式を保有している。
ソガズのウェブサイト及び企業データによれば、ソガズの取締役会長職は、プーチン氏が大統領になる前の1990年代にサンクトペテルブルク市長のもとで同僚だったガスプロムのアレクセイ・ミラーCEOが務めている。
ロイターは国外での戦闘で負傷した民間軍事会社社員の治療を行っている診療所について、ミハイル・プーチン、シェロモフ、コバルチュク夫妻、ミラーの各氏にコメントを求めたが、回答は得られなかった。ミラー氏、ミハイル・プーチン氏宛ての質問に対して、ガスプロムは回答を拒否している。
<「診療所のことは忘れなさい」>
診療所の最高責任者であるブラディスラフ・バラノフ氏に電話で取材を試みた。同氏はプーチン氏の長女マリア氏とビジネス上の関係がある。
バラノフ氏はロイターに対し、「私の診療所のことは忘れなさい。それがあなた方へのアドバイスだ」と述べた。文書での質問に対しては「私はあなた方とのやり取りを望んでいない」と答えている。
ロシア政府のドミトリー・ペスコフ報道官は「この件に関しては何の情報も得ていない」と語った。ロシア国防省、ソガズ、プーチン氏長女にもコメントを求めたが、回答はなかった。
(翻訳:エァクレーレンン)

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab