コラム:孫氏とエリオット、双方が代償払えば歩み寄り可能
Liam Proud
[ロンドン 12日 ロイター BREAKINGVIEWS] - ソフトバンクグループ<9984.T>の孫正義会長兼社長と、「物言う株主」として知られる米ヘッジファンド、エリオット・マネジメントを率いるポール・シンガー氏は、見る世界が異なっている。孫氏は300年先の展望をとうとうと語り、シンガー氏はもっと目先の株主価値が高まることを望む。その結果、どちらも満足は得られないかもしれないが、2人なら歩み寄れる地点を見つけられるはずだ。
シンガー氏のエリオットは、ソフトバンクGの3%近い株式を取得。孫氏は企業統治の面で譲歩する姿勢が見られ、12日の4-12月期決算発表時に、傘下の「ビジョン・ファンド」の情報開示を強化することに熱意を示した。そこで次にやろうとしているのは、ソフトバンクGの過小評価を解消するという仕事で、孫氏はウィトゲンシュタインのあの有名な、視点によってウサギにもアヒルにもなるというだまし絵に自社をなぞらえるという奇妙な論法を持ち出してきた。ソフトバンクGは純資産価値が2280億ドルだと主張する一方、市場価値はそれより52%も低いという見方の違いを説明したのだ。
過小評価をなくす1つの解決策は、ソフトバンクGがアリババ、スプリント、アームの持ち分を株主に渡して解体することだが、現実味は乏しい。というのも孫氏がソフトバンクGの株式22%を握っている以上、他の株主が経営方針を巡って大々的な委任状争奪戦を仕掛けても、全体の3分の2の賛成が必要な点からすると、孫氏はそうした議案を阻止できる。だからこそエリオットも、ソフトバンクGの大規模なポートフォリオを削り、その分を自社株買いに回してくれという、より穏当な要求を掲げている。
孫氏も、素直に受け入れるかもしれない。昨年同氏が55億ドル規模の自社株買いを発表した際には、カーク・ブードリー氏によるとソフトバンクGの企業価値のディスカント率は15%ポイントも縮小した。もしソフトバンクGがポートフォリオのうち200億ドルを換金して自社株購入に回せば、1株当たりの純資産価値は12%高まる。前回の自社株買い局面と同じだけディスカウント率が縮まるなら株価は、TモバイルUSとスプリントの合併を米連邦地裁が容認したニュースで12日に値上がりした後でさえ、47%も上昇するだろう。その場合、株価がまだ安かった数カ月前に投資したエリオットのリターンはより大きくなり、ソフトバンクGの筆頭株主である孫氏の持ち分の価値も再び増大する。
こうした「協定」成立のためには、双方が犠牲を払わなければならない。エリオットは、もっと過激なソフトバンクGに対する外科手術がもたらすさらなるリターンを手にするのをあきらめることになる。また自社株買いは借金が増えることも意味するので、ソフトバンクGの資産価値に対する負債比率は、「平常時」における自主的な上限としている25%にじわじわと近づく。そして孫氏は、ビジョン・ファンド第2弾を支えるための手元資金が少なくなる。つまり、シンガー氏と孫氏はお互いの対立する投資観を何とか折り合わせるのは可能だ。しかし、ともに無傷では済まないだろう。
●背景となるニュース
*ソフトバンクグループは12日、2019年4-12月の売上高が7兆円(637億ドル)だったと発表した。孫正義会長兼社長によると、グループの純資産価値は今月12日時点で2280億ドル。
*エリオット・マネジメントは、ソフトバンクGの株式約30億ドル相当を保有し、グループの価値増大に向けた方法を協議している。ロイターが6日、複数の関係者の話として伝えた。
*エリオットとソフトバンクGは、ビジョン・ファンドの意思決定プロセス改善や、自社株買いの可能性を話し合っている。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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