アングル:韓国市場、北朝鮮より「トランプリスク」に困惑

アングル:韓国市場、北朝鮮より「トランプリスク」に困惑
7月10日、韓国の投資家は長年、敵対する北の隣国の好戦的な態度や、定期的に強行されるミサイル実験に慣らされてきたが、今や、彼らの地域リスク評価に、新たな要素が加わった。ソウルで2016年1月撮影(2017年 ロイター/Kim Hong-Ji)
Dahee Kim, Cynthia Kim
[ソウル 10日 ロイター] - 韓国の投資家は長年、敵対する北の隣国の好戦的な態度や、定期的に強行されるミサイル実験に慣らされてきたが、今や、彼らの地域リスク評価に、新たな要素が加わった。トランプ米大統領だ。
北朝鮮の軍事挑発行為が、金融市場に衝撃を与えることは頻繁だった。ただ最近までは、世界的な外交努力で同国の侵害行為も抑えられるとの暗黙の期待から、市場の動揺は限定的だった。
しかし現在、トランプ大統領の奔放なツイートや、米ホワイトハウスのタカ派な対応に対する市場の不安は、北朝鮮の扇動に対するものと同じ程度に強い。
トランプ氏が大統領選で当選した昨年11月以降、北朝鮮の長距離ミサイル発射実験に対する地政学的リスクをヘッジするためトレーダーがよく利用するクレジット・通貨デリバティブ(金融派生商品)の値動きが、目立って荒くなった。
「トランプ氏は(就任後の)数カ月で、オバマ前大統領の8年間よりも、大きく市場と中国を動かした」と、三菱東京UFJ銀行の東アジア担当アナリスト、クリフ・タン氏は指摘する。
国際的に孤立する北朝鮮は、国連安全保障理事会の決議に逆らい、この十数年あまりで、5度の核実験と幾度ものミサイル発射実験を繰り返してきた。1950─53年の朝鮮戦争は、平和条約ではなく休戦協定で終結したため、厳密には、北朝鮮と韓国はいまだ戦争状態にある。
トランプ氏が大統領選に当選する以前、ミサイル実験はかなり定期的に行われていたため、市場はやり過ごす方法を習得していた。
今年に入り、オプション市場では、北朝鮮関連のリスクから投資を守るコストが急上昇した。例えば、通貨ウォンの急落に備える3カ月物の保証コストは、4月中旬に231ベーシスポイント(bp)に達し、6カ月前と比較して倍の水準となった。
この急騰は、米国が朝鮮半島沖に戦艦を送り、トランプ大統領が中国の習近平国家主席との会談中にシリアの空港を空爆して軍事力を誇示している最中に起きた。
ウォンの売却権利を得るオプション価格は4月、韓国と北朝鮮の軍事的緊張が高まった2015年8月以降で最も高くなった。
「トランプ劇場に対する反応だった」とソウルの為替トレーダーは説明する。「トランプ大統領の強硬姿勢や、メキシコ国境の壁建設からシリア政策に至る、過去のクレイジーな発言の数々は、ここで投資するトレーダーに、まったく新たな種類の不確実性をもたらした」
<トランプリスク>
地政学的な緊張にもかかわらず、堅調な輸出と第2・四半期の好調な企業業績見通しに支えられ、ウォンと総合株価指数(KOSPI)<.KS11>は今年に入り、それぞれ4・6%と17.4%上昇するなど、韓国の主要金融市場は好調に推移している。
しかしながら、投資家が痛みを感じているのは、リスクヘッジのコストだ。ウォンを売却してドルを買うオプション価格は、トランプ氏が昨年11月に当選した時の方が、その2カ月前に北朝鮮が5回目の核実験を強行した時点よりも、逆に高かった。
韓国ウォン売りの権利を得る3カ月物オプションのプレミアムは、トランプ氏が就任する以前の数年間は100bp前後で推移しており、2016年3月に北朝鮮がミサイル実験を行い当時のオバマ大統領が強い警告を発した際も、ほとんど動かなかった。
「米民主党が政権を握っていた時代に比べ、トランプ政権下で強硬路線に傾く米国の姿勢に対して、金融市場はより敏感になっている」と教保アクサ資産運用でクオンツ運用を担当するShim Hyun-soo氏は語る。
他のデリバティブ市場でも、韓国のデフォルトリスクを示すクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の5年物スプレッドが4月17日に60bpと、過去10カ月間で最高水準に達した。
市場が予想する韓国ウォンのボラティリティ(変動率)も上昇基調にあり、1カ月物のインプライド・ボラティリティ(予想変動率)は4月に過去5年間で最高となる13.2%に達した。
「オバマ政権時代、市場は北朝鮮について、さほど懸念していなかった。みな、金正恩政権が本当にバカなことをやるとは思っていなかった。それは終わりの始まりを招くからだ」とサムスン・フューチャーズ(ソウル)の通貨アナリストJeon Seung-ji氏は語る。
「北朝鮮リスクは、もはや『半日の下落』では済まないものになった。市場は、米政府が北朝鮮をどう扱うのか、測りかねているからだ」と同氏は語った。
(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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