アングル:米中合意で投資前提に変化、怖いのは「ちゃぶ台返し」との声

アングル:米中合意で投資前提に変化、怖いのは「ちゃぶ台返し」との声
 11月8日、日経平均が年初来高値を更新、東京株式市場は強気ムードに覆われている。写真は東京証券取引所で2015年7月撮影(2019年 ロイター/Toru Hanai)
水野文也
[東京 8日 ロイター] - 日経平均<.N225>が年初来高値を更新、東京株式市場は強気ムードに覆われている。最大の懸念材料だった米中通商協議は、貿易戦争の過程で発動した追加関税の段階的撤廃で合意、世界的な景気悪化懸念が後退した。投資の前提が変化したことで、株買いに対する不安感が一気に解消している。合意を台無しにするトランプ米大統領からの情報発信だけが当面の懸念材料とみる関係者が多い。
中国商務省の高峰報道官は7日の会見で、中国と米国がここ2週間の間に、双方が貿易戦争の過程で発動した追加関税を段階的に撤廃することで合意したと明らかにした。一方、米政府高官も同日、匿名を条件に、第1段階の合意の一環として関税撤廃が計画されていることを確認した。これを受けて7日の米国株式市場はダウ<.DJI>とS&P500<.SPX>が最高値を更新。東京株式市場でも日経平均が高値を更新した。
市場では「米中対立で世界景気が悪化するという投資の前提が覆った。そうなると今後は、これまでと反対に景気の上向きを買うような動きになる」(東洋証券・ストラテジストの大塚竜太氏)との声が聞かれた。さらに、円安に振れる為替も株価に追い風となっている。
それを象徴したのがトヨタ自動車<7203.T>の動きだ。時価総額が25兆円を超す巨艦でありながら、前日比で2%を超す軽やかな上昇。「好決算や自社株買いといった同社独自の材料で上がったという印象ではない。日本の景気上向きを読んで、指標株であるトヨタが買われているようにみえる」(国内証券)という。
投資前提が変化したことは、マーケット全体のポジションにも大きな変化をもたらす。東海東京調査センター・チーフエクイティマーケットアナリストの鈴木誠一氏は「こまでの日経平均株価の上昇はショートカバーが中心で、ほとんどの投資家が安いところで買えていない」とし、「弱気でみていた人がこれから上昇を織り込みに行く」と指摘する。
鈴木氏は、日経平均は、2018年10月につけたバブル崩壊後の最高値2万4448円07銭を試す展開となり、勢いがつけば2万5000円近辺まで行ってもおかしくはないとの見方を示す。
財務省が8日に発表した10月27日─11月2日の対内株式投資は、4209億円の買い越し。10月13─19日は5220億円、10月20─26日は6493憶円と、大幅な買い越しが続いており、需給面の安心感も出ている。上値で年金など国内勢の利益確定売りが出る場面では、海外勢からの買いが吸収する期待も高まる。
不安材料は、米トランプ大統領の「ちゃぶ台返し」くらいという。キャピタル・パートナーズ証券・チーフマーケットアナリストの倉持宏朗氏は、リスク要因について「米中通商協議で注目すべきことは、農産物分野や知的財産分野でネガティブな方向に動くかどうか」と指摘。そのうえで「トランプ米大統領が以前のように合意の直前に、融和ムードを台無しにするツイートでもしない限り、強い基調が続く」との見方を示している。

水野文也 編集・チャート作成:佐々木美和

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