コラム:米ハイテク株の波乱、個人のオプション取引に一因か
Anna Szymanski
[ニューヨーク 24日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 著名な米ハイテク株が最近、きな臭い動きを示している。このセクターが最近荒れている背景には、未曽有の規模に膨らんだテスラ株やアップル株の金融派生商品(デリバティブ)取引があるのかもしれない。ロビンフッドなど一部のプラットフォームが提供する安価な、もしくは無料の取引により、個人投資家は株式オプションを用いて安くレバレッジをかけることが可能になった。手数料なしの取引には、意図せざる代償が伴うかもしれない。
8月はボラティリティーの高まりをよそに、テスラ株が70%余り急騰するなど不可解な株価の急上昇が見られた。9月になるとアップル株が15%超下落したのを含め、相場が大きく下げた。
株式を特定の価格で買う権利であるコールオプションが、不安定な相場の一因かもしれない。CBOEグローバル・マーケッツによると、米国株の個別銘柄を原資産とするオプション取引の1日平均出来高は8月に過去最高を更新した。オプションズ・クリアリング・コーポレーションのデータによると、小口投資家によるコールの買いは先月、概算で約5000億ドル相当となった。
こうした状況下で「デルタヘッジ」と呼ばれる手法により、相場の変動が増幅したとみられる。デルタとは、原資産である株式の値動きによってオプション価格がどの程度変動するかを示す推計値だ。ウォール街のマーケットメイカー(値付け業者)がコールを売る場合、ヘッジするために原資産の株式を何株買えばよいかがデルタで示される。投資家が短期のコールを買えば、コールの売り手による現物株の買いが当該銘柄の価格を押し上げる可能性がある。
ソフトバンクグループがハイテク株のデリバティブに40億ドルを投じたと報じられたが、これは市場で起こっていることの全貌とはほど遠い。実際ブルームバーグによると、同社の取引はおそらく期間が長めで、デルタには中立的なものだったため、市場への影響は小さかったと考えられる。
英紙フィナンシャル・タイムズによると、手数料がこれほど低くては利益を上げにくいため、シティグループは個人向けオプション取引のマーケットメイク業務から撤退する方針だ。手数料の低下がデイトレーダーのオプション取引への投資意欲をかき立てているのなら、シタデル・セキュリティーズなど残る仲介業者が首尾よく対応し、トレーダーの儲けを小さくするはずだ。
そうならない場合でも、相場下落の現実味は消えない。相場の急騰後に反落するには格好の環境であり、個人投資家は賭けた金額をすべて失うリスクが生じる。しかもこうした取引は、資本配分というよりスロットマシン遊びに近く、市場機能への貢献という点でも大いに疑問がある。
以前は手数料が高かったため、個人投資家がオプション取引を手控えていたのかもしれない。規制当局が個人のオプション取引を制限する方法としては、他の投機的取引と同様、特定の取引に対する課税が挙げられそうだ。市場は多少障害がある方がうまく機能することもあるものだ。
●背景となるニュース
*CBOEグローバル・マーケッツによると、米国株の個別銘柄を原資産とするオプション取引の1日平均出来高は2020年に大きく増え、8月は過去最高の1800万枚余りに達した。
*23日付の英紙フィナンシャル・タイムズによると、シティグループは個人向けオプション取引のマーケットメイク事業を閉鎖する方針。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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