コラム:東芝半導体、WD陣営へ売却で八方丸く収まるか
Quentin Webb
[香港 29日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 東芝<6502.T>は半導体子会社の売却を再交渉することで、関係各方面のほぼ全てを喜ばせようとしている。
逆境にある同社は、半導体子会社を174億ドル(約1兆9000億円)程度で早期売却する必要に迫られている。売却に向けた最初の交渉は、米ウエスタンデジタル(WD)の横やりで頓挫したが、東芝は今や、そのWDとの売却交渉に望みをかけている。
この第2交渉でも独禁法審査の承認を得ることができるだろうし、政府関係者を納得させるのに十分「日本的」な合意内容となるだろう。
ロイターは、WD陣営が買収総額1兆9000億円で合意に近づいていると報じた。これは、WDにとって間違いない勝利だ。
世界第2のタブレット向けフラッシュメモリー製造子会社「東芝メモリ(TMC)」の売却に関して6月に最初に結ばれた売却合意からは、WDは締め出された。その後、WDは東芝を相手取り、他社への売却に反対する差し止め請求を起こしていた。
これにより、売却手続きが来年3月の期限までに完了できなくなり、東芝が上場廃止に追い込まれるリスクが生じていた。また、売却が合意できなければ、東芝のメインバンクなどがクレジットの延長に応じなくなる可能性もあった。
報じられた買収総額は、最初の交渉条件より1000億円安い。また、交渉相手も、韓国半導体大手SKハイニックス<000660.KS>に代わりWDが、米系ファンドのベインキャピタルに代わり、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)が参加するなど、面子が入れ替わった。
だがその他の条件は、最初の合意内容に極めて近いものだ。今回のディールも日本勢が重きを占め、ハイテク資産の主導権を巡る政治的懸念を和らげるものになっている。
政府系の産業革新機構や日本政策投資銀行は、それぞれ3000億円を拠出し、KKRの予定拠出額に肩を並べることになる。こうした枠組みによって、東芝の業績が将来回復した場合、子会社を買い戻すことも可能になる。日本の銀行や企業も、資金拠出に協力する。
一方WDは、転換社債による1500億円の拠出にとどめ、直接株式を持たないことで、長期間に及ぶ独禁法審査を回避する。SKハイニックスであっても、同様の出資方法を取ったことだろう。
今回のディールは、WDが欲しいものを得る一方で、日本側も主導権を手放さなくてすむ内容だ。はじき出されたSKとベイン以外、関係するそれぞれが、何かを手にする格好だ。ただ東芝にとっては、(交渉を土壇場でひっくり返したことは)市場に忘れて欲しいさらなる恥の上塗りといえそうだ。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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