アングル:トヨタの燃料電池車ついえぬ夢、鍵握る東京五輪バス

Kevin Buckland
[東京 18日 ロイター] - 2020年東京五輪・パラリンピック会場間の移動手段として、バスはやや魅力に欠けるかもしれない。しかしトヨタ自動車<7203.T>は、電気自動車(EV)の後塵を拝する水素エネルギー技術を広める上で、このバスが絶好の役割を果たすと期待している。
トヨタは水素エネルギーを用いる燃料電池バス100台を、会場まで観客を運ぶ路線バスに投入する計画。2022年北京冬季五輪での大規模展開を見据えた布石だ。
プロジェクトに詳しい複数の関係者によると、北京冬季五輪では北汽福田汽車股份有限公司<600166.SS>と組み、バス1000台以上の導入を計画している。環境汚染物質を排出しない「ゼロ・エミッション」技術を推進する中国政府の取り組みを、最大限に活用する狙いがある。
トヨタは国際オリンピック委員会(IOC)との間で、24年まで続く「モビリティ」スポンサーシップ契約を結んでおり、水素エネルギーの促進計画はその一環。路上にはEVが増えており、トヨタ自体もEV開発を加速させながらも、同社として水素エネルギーを後押ししていく決意を鮮明にした。
ただ、水素エネルギーの広報効果をバスに頼っていることは、トヨタの燃料電池自動車が人気を得られていないことの証左でもある。日本政府の後ろ盾を得た四半世紀におよぶ開発努力にもかかわらず、燃料電池輸送が今後もニッチ市場から抜け出せないリスクも浮かび上がる。
5年前、同社が次世代の自動車として鳴物入りで導入した燃料電池自動車MIRAI(ミライ)の販売台数は1万台に届いていない。価格は政府補助が付いて約500万円で、韓国の現代自動車<005380.KS>のネクソ、ホンダ<7267.T>がリース販売するクラリティと並び、一般消費者が買える燃料電池車3種類の1つだ。
対照的に、米テスラの完全EV自動車「モデルS」は2012年の発売から1年半で2万5000台を売り上げた。
ミライの販売が振るわない背景には、水素ステーションの不足に加え、転売時の価格や水素爆発を巡る不安がある。韓国では5月、水素タンクが爆発して2人が死亡、ノルウェーの水素ステーションでも6月に爆発が起きた。
トヨタのオリンピック・パラリンピック部の伊藤正章部長はロイターに対し「水素は今なお危険で爆発しかねないというイメージがある。そうしたイメージを払拭したいので、このオリンピックの機会に水素をしっかりとアピールしたい」と述べた。
同社は東京五輪で、会場間の大会関係者の輸送にミライ500台を提供する。「なるべく幅広い人にこの技術に触れていただきたい」と伊藤氏は言う。
<政府の構想>
トヨタは燃料電池型の配送トラックと超大型トラックも開発中だが、この技術への投資額を公開していない。ただ投資には、石油依存を減らす上で水素が鍵を握るとみる日本政府の力添えもあった。
トヨタと政府はともに、住居から鉄道、船舶、果ては月面車に至るまで燃料電池が動かす「水素社会」構想を描いている。
東京都はオリンピック選手村を水素社会の縮図としてお披露目する意向で、東京都交通局として燃料電池バスを購入し、15台が既に稼働中だ。
一般の自動車と異なり、バスは路線が決まっているため水素ステーションを計画しやすく、黒字化の弾みとなる。
東京都交通局の代表によると、コストの80%を国と地元自治体が補助することで、価格を2300万円と通常のディーゼルエンジン・バス並みに抑えている。
しかし政府の壮大な目標は未達のままだ。3年前、政府は20年までに走行する燃料電池自動車を4万台に増やし、160の水素ステーションを稼働させると宣言した。しかし日本で販売済みの燃料電池自動車は現在3400台で、水素ステーションは109カ所にとどまっている。
<中国に期待>
ただ一部のアナリストは、水素エネルギーは広大な自動車市場を抱える中国が推進していると指摘し、トヨタの開発努力を擁護する。
マッコーリーのアジア自動車調査責任者、ジャネット・ルイス氏は「中国はずっと速く前進しており、燃料補給インフラの不足という同じ問題を抱えてはいるが、かなり迅速にインフラを整えてみせた実績がある」と話す。
北京冬季五輪で、トヨタは北汽福田汽車股份有限公司のバスにパワートレイン装置を供給する。関係筋によると、会期中、バスには「パワード・バイ・トヨタ」の文字を掲げるブランド戦略が採用される見通しだ。
トヨタは、北京五輪で採用される燃料電池バスの数は決まっておらず、ブランド戦略は北汽福田汽車に委ねられるとコメントした。北汽福田汽車からはコメント要請への返信が得られていない。
水素エネルギー技術は黒字化していないが、トヨタは規模拡大に伴いコストも低下するとしている。同社は次世代燃料電池スタックと水素タンクの工場を構築中で、燃料電池自動車の生産台数を年3万台に増やす計画だ。

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