アングル:集会戦術に執着するトランプ氏、世論と合わず「空回り」

アングル:集会戦術にこだわるトランプ氏、世論と合わず「空回り」
 7月10日、11月の米大統領選に向けて、トランプ氏は支持率の低下や幾つもの国家的な危機に直面しながらも、誇張的で乱暴な言い回しを駆使する集会を相変わらず選挙戦の主な手段としている。写真は6月20日、オクラホマ州タルサで撮影(2020年 ロイター/Leah Millis)
Jeff Mason Steve Holland
[ワシントン 10日 ロイター] - 11月の米大統領選に向けて、トランプ氏は支持率の低下や幾つもの国家的な危機に直面しながらも、誇張的で乱暴な言い回しを駆使する集会を相変わらず選挙戦の主な手段としている。だが2016年の前回選挙後に、米国では多くの状況が変わったのだ。
米国では新型コロナウイルス感染症の死者が13万人を超え、感染対策としてロックダウン(封鎖)が実施された結果、経済は奈落の底に沈んだ。また5月に黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官に首を押さえつけられて死亡した事件をきっかけに、人種差別や警察の暴力に対する抗議デモが全米に広がった。トランプ氏はこれらの事態にうまく対処できていない。
それでもトランプ氏は、独立記念日前夜の3日にサウスダコタ州ラシュモア山の国立記念碑のふもとで行った集会に出席した7500人が、全米的な抗議デモ参加者を批判する同氏を強く支持したことに気分を良くしたもようだ。あるアドバイザーは、同氏が帰りの大統領専用機の中で、側近らにこうしたイベントをもっと開催して、メッセージを伝えて回りたいと語ったと明らかにした。
ただトランプ氏陣営は10日、ニューハンプシャー州で11日夜に予定していた集会の延期を発表した。同州は16年の選挙で民主党候補のヒラリー・クリントン氏に敗れた激戦区。ホワイトハウスは、熱帯暴風雨の接近を理由に挙げたが、雨は11日午後までに州内のほとんどの地域で上がるとの予想が出ていた。
これに先立ち、6月にオクラホマ州タルサで開いたトランプ氏の集会では、空席が目立っていた。また地元の公衆衛生当局者は8日、この集会は同州の新型コロナ新規感染者数増加につながった公算が大きいと指摘していた。
共和党内でも、トランプ氏が強固な支持層にばかり堂々とアピールする姿勢は、穏健派や無党派層を離反させ、民主党の候補指名を確定させているバイデン前副大統領に11月の本選で大敗しかねないと心配する声が出ている。
しかし、複数の関係者によると、トランプ氏は自身の直感に従い、周囲の助言を受け付けない。先のアドバイザーによると、「怒り狂った暴徒」と「過激な左派」と対決する態度こそが有権者に有効なのだ、とトランプ氏は確信している。前回の勝利につながった「法と秩序」「米国第一」「無法状態の阻止」といったキーワードに回帰したがっているという。
<裸の王様>
確かにトランプ氏は前回選挙で、人種や宗教の面で社会の分断化をあおったことが当選の一因になった。こうした作戦を通じて、無党派層で7%ポイント、高齢者で13%ポイント、学歴が大卒未満の有権者で29%ポイント、大卒白人男性で1%ポイント、白人女性で13%ポイントのリードを確保したのだ。
16年の本選当日にロイターが調査したところでは、トランプ氏に票を投じた人の26%が、初めて選挙に来たか、12年には民主党のオバマ前大統領に投票していた。トランプ氏としては、今回もこれらの有権者を取り込む必要がある。
ところがかつてのトランプ氏のアドバイザーの1人は、今年は事情が違うのだということを「トランプ氏以外の誰もが」感じ取っていると述べた。世論調査でもそれは明らかで、トランプ氏は無党派層だけでなく、白人男性や白人女性、高齢者でも支持を失っている。
別の関係者の話では、16年のアドバイザーの何人かがここ数週間でトランプ氏に連絡を取り、挑発的な言動をやめて2期目のための代わりの戦略を練るよう説得しようとした。つい最近には前ニュージャージー州知事のクリス・クリスティー氏が、そうした目的でトランプ氏にメモを送付したという。
一方でトランプ氏は、過去1週間でも国内の「伝統主義・保守主義者と進歩主義・自由主義者の文化的な対立」を強調しあおり続けた。ラシュモア山の記念碑の集会に続き、4日の独立記念日のホワイトハウスでの演説でも、人種差別の象徴とみなした銅像を破壊したデモ隊を非難。6日には自動車レース主催のNASCARが南北戦争当時の南軍旗使用を禁止したことをやり玉に挙げた。黒人レーサーの車庫から人種差別を想起させる縄が見つかった問題については、捜査で結局事件性がないと判断されたことで、レーサーは「謝罪」すべきだと訴えた。
ホワイトハウスの元高官は、トランプ氏がこうした挑発的な物言いをするため、残された戦略として最も有効な、バイデン氏に「リベラル過ぎる」というレッテルを貼る取り組みが台無しになっていると分析。本選まであと4カ月となった今、トランプ氏陣営にとってこのレッテル攻撃がとっておきの切り札なのに、陣営はこれをあまり上手にやっていないとみている。
<再び支持基盤固め>
共和党ストラテジストのアレックス・コナント氏は「時間がトランプ氏の側に不利になってきた局面で、彼は(もともと岩盤の)支持基盤を固める作戦に戻っている。パンデミックの対応を説明しても誰も喜ばないが、南部諸州の銅像を守ると言えば支持者の一部は歓迎してくれる」と打ち明けた。
トランプ氏が2016年の大統領選挙に引き続き目指すのが、1968年の大統領選で勝利した共和党候補のリチャード・ニクソン氏の戦術。ニクソン氏は、激しさを増していたベトナム戦争反対運動を「物言わぬ多数派(サイレントマジョリティー)は支持していない」が持論だった。
ただし世論調査は、そうしたトランプ氏の思惑と有権者の意識がかい離していることを示している。ロイター/イプソスの調査を見ると、3月から6月までの間にバイデン氏は無党派層の支持率でトランプ氏に12%ポイントの差を付けた。3月時点でトランプ氏が3%ポイントリードしていた55歳より上の高齢者の支持率も、6月はバイデン氏が逆に7%ポイント優位に立っている。
そこでトランプ氏陣営が期待をかけていたのが、11日に予定していたニューハンプシャー州の集会だった。陣営によると、当地で新型コロナ感染拡大が起きる前の2月に開いた前回の集会では、配布した5万3000枚のチケットのうち17%は、直近の選挙に足を運ばなかった人、また25%は民主党員が受け取っていた。
選対本部の広報担当者は「こうした集会こそが、トランプ大統領の歴史的偉業を有権者に改めて思い起こしてもらう完璧な機会になる」と話す。
ホワイトハウスは、集会時期は1、2週間先送りされると説明した。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab