アングル:トランプ大統領のマイナス金利要求、預金者には脅威

アングル:トランプ大統領のマイナス金利要求、預金者には脅威
 9月11日、トランプ米大統領は米連邦準備理事会(FRB)に政策金利をマイナス圏まで引き下げるよう要求し、FRBに対する利下げ圧力を一段と強めた。写真はオーバルオフィスで4日撮影(2019年 ロイター/Jonathan Ernst)
[ワシントン 11日 ロイター] - トランプ米大統領は11日、米連邦準備理事会(FRB)に政策金利をマイナス圏まで引き下げるよう要求し、FRBに対する利下げ圧力を一段と強めた。しかしFRB当局者は全国のロータリークラブや商業会議所で講演する際にしばしば、金利が低過ぎると全く逆の不満をぶつけられる。預金者、特に定年退職が近い年齢層の預金者は預金や債券投資で十分なリターンを得ていない。
トランプ氏が提唱するマイナス金利は実質的に預金者に利息分の負担が行く一方、借り入れの能力があったりその意欲があったりする人々には恩恵をもたらす。
既に欧州の一部や日本では実施されている。日本ではすこぶる評判が悪く、消費者が現金を銀行に預ける代わりに自宅にしまい込むための金庫を購入する様子をワイドショーやタブロイド紙が大きく取り上げたほどだ。
FRB当局者はマイナス金利について、米経済は比較的堅調な上、こうした政策はリスクが高く政治的支持も低いことから、導入は不必要として可能性を否定している。米国の預金金利は先の世界金融危機後の「グレートリセッション(大不況)」以前のほぼ3倍の水準にある。
比較的低い金利は住宅の買い手や企業の新規設備投資などには追い風だが、半面、銀行預金の多くや、譲渡性預金証書(CD)もがリターンの悪化を起こし、インフレ調整後の家計貯蓄は目減りする。
ボストンカレッジのキャロル経営大学院のアリシア・ムネル教授は、定年退職後の人は金利上昇を望むようになると指摘。「(貯金や年金の)取り崩しに入った年代に金利上昇が恩恵をもたらすのは間違いない」と述べた。
富裕な投資家は株式や他の高リスク・高リターン資産に投資し、低金利の穴を埋めることができる。目端の利く一部の米国民は預金での高リターンの確保に熱心で、FRBの利上げに伴って利回りが上昇した政府の財務省短期証券(TB)の直接入札は記録的な結果になった。
一方、保有資産が少ない、あるいは金融知識の乏しい投資家は通常の預金か低利回りの米国債以外に預金を守るすべがなく、低金利環境では資産を守ることができない。
政策分析会社フェデラル・ファイナンシャル・アナリティクスのカレン・ペトロー氏は「低金利は経済的な平等を破壊する」と指摘。マイナス金利になれば中所得層、特に定年退職に備えて貯蓄しようとしている人々を罰することになるため、一段と平等性が破壊されるとした。
米国がすぐにマイナス金利を導入する可能性はほとんどないとしても、預金者、とりわけ定年退職者は今年、高リターンに別れを告げることになりそうだ。世界的な成長鈍化や米中通商紛争の激化でFRBは7月に10年ぶりとなる利下げに踏み切り、来週の連邦公開市場委員会(FOMC)でも追加利下げが見込まれている。
米国民は定年年齢近くなると所得の安定を債券に頼ることが多い。例えばフィデリティの退職向け預金の運用は、定年まで5年以内の顧客では債券への投資配分が37%。債券の利回りがマイナス圏に沈めば、債券の配分が大きいこうしたポートフォリオは打撃を被る。
FRBがグレートリセッション後の利下げ局面やそれ以降も政策金利をプラスに維持したのに対して、マイナス金利を導入した中銀は、FRBと異なり金融危機の後に目に見えた利上げができなかったにすぎない。
パウエルFRB議長は就任時の議会公聴会で「債券や銀行預金、短期金利を本当に当てにしているならば(低金利は)重荷だろう」と述べている。議長は預金者の懸念を強く意識しているようだ。

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