コラム:米銀投資家、新資本規制と利益還元制約で減る分け前

コラム:米銀投資家、新資本規制と利益還元制約で減る分け前
6月29日、米銀の投資家は、これまでよりも少ない「分け前」に甘んじなければならないだろう。写真は米銀6行のロゴ(2020年 ロイター)
John Foley
[ニューヨーク 29日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米銀の投資家は、これまでよりも少ない「分け前」に甘んじなければならないだろう。バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)、JPモルガン、ウェルズ・ファーゴ(Wファーゴ)といった大手行は6月29日、米連邦準備理事会(FRB)が将来の危機に備えて義務付けた「ストレス資本バッファー」の一部として積み立てておくべき資本の規模を公表した。つまり配当は減り、特に何年にもわたって1株当たり利益の見栄えを良くしてきた自社株買いも縮小する。
ストレス資本バッファーを盛り込んだ大手行の資本要件は、以前の仕組みよりも個々の銀行の事情に沿った制度になっている。従来は最大手6行がおしなべてリスク性資産の9-10.5%の資本を保有することが必要だったが、この比率にずっと大きなばらつきが出てきたのだ。具体的な最低資本要件を見ると、Wファーゴの9%に対して、モルガン・スタンレーは13.4%、ゴールドマン・サックスは13.7%だ。
Breakingviewsの計算に基づくと、最大手6行は合計でこれまでより500億ドル強ほど余計に資本を上積みしなければならない。幸いにしてほとんどの銀行は既にそれ以上の規模を手当てし終えた。例外がゴールドマンで、昨年の利益のおよそ半分に相当する40億ドルを追加的に積み立てることを迫られている。これは資産圧縮ないし減配でねん出されるかもしれない。ただ一段の資本積み増しが必要ない幾つかの銀行でさえ、株主還元に回せる可能性がある内部留保は目減りしている。
そうした状況がもう1つの微妙な問題につながる。FRBが26日に発表した新ルールによると、大手行の配当は過去4・四半期の平均利益を超えてはならない。これに引っ掛かるのがWファーゴだ。リフィニティブのデータでは、アナリストの向こう12カ月の利益予想は平均16億ドルだが、直近の四半期配当額は20億ドルだった。その上、自社株買いは少なくとも9月末まで禁止される。もっとも大半の銀行は今年初め、自主的に自社株買いを停止した。
自社株買いがなくなるのは、投資家にとって最大の足かせと言える。米銀はこれまで行ってきた株主還元では自社株買いの割合が一番大きい。自社株買いは発行済み株式を減らすので、1株当たり利益の増加率を高めてくれる。シティグループを例に挙げれば、昨年の1株利益の伸びは、利益全体の伸びの2倍だった。平均すると最大手6行は2015年以降に買い戻したのは発行済み株式の2割、今年1-2月だけでも3%に達する。新しい資本規制によって、銀行株のリスクが低下する半面、投資家の満足度も下がってしまう可能性がある。
●背景となるニュース
*複数の米大手行は6月29日、FRBのストレステスト結果が自行のバランスシートに及ぼす影響の詳細を公表。重要なのは、将来の危機に備えて積み立てる必要がある「ストレス資本バッファー」の規模。
*シティグループとバンク・オブ・アメリカは、ストレス資本バッファーのリスク性資産に対する比率は2.5%で、従来の枠組みで義務付けられていた「資本保全バッファー」と同じ水準になると表明した。両行とも当面、配当は計画通り続けるという。
*ゴールドマン・サックスが明らかにしたバッファー比率は6.7%で、最低自己資本要件は13.7%となる。現在の最低自己資本要件は13%。
*モルガン・スタンレーのバッファー比率は5.9%、最低自己資本要件は13.4%の見通し。3月末時点の最低自己資本要件は15.7%だった。
*ウェルズ・ファーゴはシティと同じく、資本保全バッファーがストレス資本バッファーに切り替わっても水準に変化は生じない。ただFRBが定めた配当基準(過去4四半期の利益の平均が上限)を守るため配当額を減らす意向で、次回の四半期決算で詳しく説明するとしている。
*ストレス資本バッファー制度は、今年10月1日から来年9月30日にかけて導入される。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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