コラム:米大手行の時価総額が急減、景気後退サインか
Antony Currie
[ニューヨーク 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米大手銀5行はこの3週間だけで、合計約1250億ドルもの時価総額を失った。今や5行のうち、株価純資産倍率(PBR)が1倍を上回っているのはJPモルガンだけだ。これを歴史的に考えれば、投資家が景気後退(リセッション)がやってくると考え、そちらの方向にいち早く賭けたことを意味する。しかし直近の金融危機で得られた経験に基づくと、そうしたメッセージが正確とは言えなくなる。
過去3回のリセッションの前には、大手行のPBRが1倍を割り込む場面はほとんどなかった。1倍割れが起こったのは、例えば当時のベアー・スターンズの場合は2008年に国内総生産(GDP)が縮小し始めた直後だったし、他行に至っては市場と経済が完全に崩れ落ちてからだった。
そこで現在、バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)、シティグループ、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスの時価総額が純資産より小さくなっている事態は、恐らく不安視されるところだろう。通常ならば、それは貸出債権や保有証券などにおける大幅な損失の発生か、収益力の大きな低下、あるいはその両方を市場が懸念していることを示唆している。さらにバンカメ、シティ、モルガン・スタンレーの株価は7月最終週以降で15%前後下落しており、ほぼ弱気相場の局面に入った。ゴールドマンとJPモルガンの株価も10%程度下がっている。
問題は、銀行株またはPBRの動きと、リセッションが到来することの相関性が過去10年間で揺らいでしまった点にある。5行のPBRは2011年と12年の大半、そして16年に1倍を下回って推移したが、その後リセッションは起きていない。同じように、米連邦準備理事会(FRB)が量的緩和(QE)を通じてバランスシートを大きく膨らませたことで、長短金利の逆転(逆イールド)のリセッション予知能力も鈍ってしまった。
17年になるとトランプ大統領が減税と金融規制緩和を打ち出すとの期待から、大手行のバリュエーションはついに停滞を抜け出して上向いた。ただマレーシア政府系ファンド「1MDB」を巡るスキャンダルへのゴールドマンの関与や、シティが次の危機を避ける能力があるとなかなか投資家を納得させられなかったことが、株価上昇の足を引っ張った。そして足元では、貿易戦争と金利低下によって、他の3行の株価は過去2年にわたる上昇が帳消しとなり、大手行全体として事実上、「ニュー・ノーマル(新常態)」のように見える局面が始まった時点に戻っている。
大手行のバリュエーションは、米経済の健全性の尺度としてのイールドカーブの価値がQEによって損なわれた以上に低下してしまったわけではない。とはいえ発信するメッセージを読み取るのはずっと難しくなっている。
●背景となるニュース
*バンク・オブ・アメリカの株価は15日終値が26.25ドルで、第2・四半期末の純資産価値をわずかに下回る水準になった。シティグループ、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーは既に株価純資産倍率(PBR)が1倍を割り込んだ状態だ。JPモルガンだけは株価が純資産価値を42%上回っている。
*米国債市場では14日に2─10年の利回りスプレッドが一時マイナスとなった。こうした逆イールドの発生は、リフィニティブのデータによると、2007年以降で初めてだった。
*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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