コラム:米中合意、トランプ再選のための「打ち上げ花火」か
Gina Chon
[サンフランシスコ 15日 ロイター BREAKINGVIEWS] - トランプ米大統領は、会見場面を撮影した写真にどうすれば政治的効果を持たせることができるか良く分かっている。15日にホワイトハウスで行われた米中貿易協議「第1段階」の合意文書署名式には、今回の合意でメリットを享受する可能性がある企業の首脳が勢ぞろいした。例えばボーイングのデービッド・カルホーン最高経営責任者(CEO)、カジノ業界大立者のシェルドン・アデルソン氏、大手投資会社ブラックストーンのスティーブ・シュワルツマンCEOなどだ。さらにはかつて米国の対中外交を主導したヘンリー・キッシンジャー元国務長官も顔を見せた。
とはいえ、実際の第1段階の合意内容は、長期的な枠組みというよりも、目先のトランプ氏の再選のためだけの単なる打ち上げ花火の側面が大きいのではないか。
合意によって経済見通しは改善する。まさにトランプ氏自身が生み出したとはいえ、これまで何カ月にもわたり、貿易摩擦や関税を巡る緊張が高まっていたからだ。一見すると、トランプ氏が経済面で抱える主要な不満の1つ、つまり貿易赤字にも対処できる。主に今回の合意でもほとんど撤廃されない輸入関税のおかげで、昨年11月の米貿易赤字は8%減少し、2019年全体でも6年ぶりの大幅な縮小が見込まれる。
しかし大いなる疑問は、果たして合意が維持されるのかどうかだ。中国政府は今後2年で米国の製品とサービスを2000億ドル追加購入し、知的財産保護を強化すると約束したが、過去には同じような約束を果たさなかった。
中国が同意したのは、米国から航空機や自動車などの工業製品を含めて年間輸入を1000億ドル拡大し、17年に比べて53%上積みするということだ。これは非現実的なほどの増加幅かもしれず、ブラジルなど他の貿易相手からの購入を相当減らさざるを得なくなる。当の劉鶴氏も、購入は市場の需要に基づいて行うとくぎを刺している。
技術移転の強要はせず、知的財産を保護すると中国が請け合ったのは、01年の世界貿易機関(WTO)加盟時に行った約束のいわば焼き直しだ。そして01年の約束は、なお具体的な成果となっていない。中国政府による産業補助金といった別の難しい問題は、「第2段階」協議に先送りされた。
それでも今回の合意のタイミングは、トランプ氏にとって追い風だ。米議会上院はトランプ氏の弾劾裁判を開始しようとしており、同氏の陣営は11月の大統領選で再選を目指す運動を一段と活発化させている。同氏が好む大げさな言い方をすれば、この合意は完璧な選挙のアピール材料を提供してくれた。
●背景となるニュース
*トランプ米大統領と中国の劉鶴副首相は15日、貿易協議の「第1段階」合意文書に署名した。中国は今後2年で、米国の製品やサービス購入額を2017年の1870億ドルに比べて2000億ドル増やすと約束。米企業に対する技術移転強要をやめることや、知的財産権の保護強化にも同意した。
*米国は約2500億ドルの中国製品向けの25%の関税を維持し、およそ1200億ドルの中国製品に対する関税は7.5%とする。米中の協議は次の段階に移行する。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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