コラム:米企業に「中国忖度」の転換迫る司法省
Gina Chon
[サンフランシスコ 16日 ロイター BREAKINGVIEWS] - アップルなど中国で事業を展開する米国企業にとっては、もう何年も前から「郷に入っては郷に従え」が確固としたルールとして定着している。だが、その事態は今、変わろうとしているのかもしれない。これまで多くの米企業は、中国当局の要求に沿うような方向に製品をしつらえてきており、アップルも例外ではない。
しかし、米司法省は、中国共産党に近過ぎるとみなす企業を「外国代理人」として扱う可能性を示唆した。中国側への微妙な忖度(そんたく)を働かせながら利益を得ようとする行為は、制限されることになるだろう。
バー米司法長官は16日、ウォルト・ディズニーからアルファベット子会社・グーグルに至るさまざまな米企業を、目先の利益のために中国の意向で動いていると名指しした。
例えば、映画製作会社、マーベル・スタジオが人気のアメリカ漫画(アメコミ)を下敷きにした「ドクター・ストレンジ」で、原作のチベットの僧侶を別の国籍に改編したほか、アップルは中国語版アップストアからニュースアプリ「クオーツ」を削除した、と批判している。これらは、米国のIT業界や映画業界が中国のために行ってきたことのごく一部に過ぎない。
巨大な中国市場において、当局をなだめるための措置と、現地の好みに合わせたサービスを展開することの間には明確な一線が存在する。アップルにとって中国は、1─3月の総売上高580億ドルの16%を生み出した。中国の映画興行収入は、今や世界最大規模に迫りつつある。
こうした中でアップルの株主は「疑わしきは罰せず」と考える傾向にあるようだ。今年2月、アップルに対し表現の自由に関するより詳しい方針を開示するよう求めた株主提案は、41%というかなり高い支持を得たものの、最終的には否決された。
ところが、バー長官の警告で、米企業はそうした問題に関する情報開示を強制される恐れが出てきた。同氏の理屈では、中国政府に「利用」されている米企業は、外国代理人登録法の対象になり得る。
同法は米政府機関や議会に対して、秘密裏に影響を及ぼす工作がなされるのを防ぐ目的で制定され、違反すれば刑事訴追される可能性がある。これはよほどの場合で、過去何十年間にわたって実際に適用された事例は数えるほどしかない。とはいえ、米中関係が悪化している以上、同法の発動には十分な現実味がある。
その結果として、アップルやディズニーが正式に外国代理人として登録するという奇妙な展開から、米企業が全面的に中国市場から締め出されるという純粋に痛みを伴う事態まで、いくつかのケースが想定できる。
より出現する公算が大きいのは、各企業による中国の顧客への売り込みが消極化し、大きな成長市場が縮んだように見えてしまう光景だ。いずれにしても、米政府は、米国企業が米中双方の当局に良い顔をするのをもはや認めようとしていない。
●背景となるニュース
*バー米司法長官は16日、米国企業は中国政府にどれほど「利用される」可能性があるかもっと気をつけるべきで、外国の団体や政府に協力しようとする行為は、外国代理人登録法の対象になり得ると警告した。[nL3N2EN425]
*1938年に制定された外国代理人登録法は、政治的権能を持つ外国勢力の利益を代弁する団体は、司法省に登録して情報を開示することが義務づけられている。
*バー長官は、中国が「ルールに基づくシステムをひっくり返して独裁制度にとって安泰な世界にすること」を望んでいると主張。グーグル、マイクロソフト、ヤフー、アップルを名指しし、中国共産党に積極的に「協力」していると非難した。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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