コラム:米中「第1段階」農産物合意、新型肺炎で実現さらに厳しく
Karen Braun
[フォート・コリンズ(米コロラド州) 4日 ロイター] - このところ、米国と中国の貿易がどうもすんなりと進まない。米中は3週間前に貿易協議の「第1段階」に合意したばかりだというのに、新型コロナウイルスの感染拡大が早くも合意内容を脅かしている。
中国の不幸な事態によって米中の貿易関係に暗雲が広がるのは、近年初めてではない。中国の養豚産業をアフリカ豚熱(ASF)が襲ったのは、中国が米国産大豆に関税を課し、数カ月にわたって大豆油の輸入を手控えた直後の2018年8月からだった。
今では米中の緊張が緩和し、大豆など農産物の貿易も一部再開した。しかしASFの影響により、大豆のような飼料穀物に対する中国の需要は引き続き抑えられる見通しで、第1段階合意の効果が非常に見極めにくくなっている。
第1段階合意には、中国が今年、米農産物の輸入を17年比で約50%も増やすことが盛り込まれているが、商社は実現性を最初から疑問視していた。しかも合意調印以降、中国はまだ大量の購入を実行していない。
カドロー米国家経済会議(NEC)委員長が4日、第1段階合意で約束した輸出の大幅拡大が新型肺炎の影響で遅れるとの見通しを示し、疑問はさらに深まった。いつまで影響が続くか現時点で定かではないが、カドロー氏は、サプライチェーンに壊滅的な影響が出ることはないとしている。
新型肺炎が中国経済に悪影響を及ぼせば、米農産物の貿易に大きな影響が出かねない。すべての諸外国に対する米国の輸出で、農産物の占める割合は通常6%程度だが、向こう2年間に予想される対中輸出の拡大には、農産物が16%寄与する見通しとなっている。
<経済的損失>
今のところ、中国以外の国・地域では新型コロナウイルスの感染がおおむねうまく抑制されているが、経済への影響を巡る不透明感は根強い。中国経済による世界経済への影響はかつてないほど大きくなっている上、中国経済はただでさえ昨年から減速していた。
中国で02年末に始まった重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染拡大は、03年に入っても長期間続いた。新型コロナウイルスはSARSよりずっと感染力が強いが、致死率は現状、目に見えて低い。ただ経済的損失は今の方がずっと大きいかもしれない。
02年当時、中国の経済規模は世界第6位で、世界の総生産(GDP)に占める割合は4%だった。それが昨年は、米国に次ぐ世界第2位の経済大国になっていて、この割合は16%だ。
多くの国・地域が渡航禁止措置を講じたこともあり、コモディティ市場では中国からの需要に懸念が広がっている。中国便を運航停止とする航空会社が相次ぎ、原油価格は下落、主要産油国は価格安定のための減産を検討している。
<食肉需要も減少か>
感染拡大地域の封鎖措置や、中国国内および国外の移動の減少により、食肉需要が短期的に打撃を被りかねない。例年は肉の消費が増える春節(旧正月)と時期が重なっただけに、なおさらだ。ASFを主因として、中国の食肉消費はただでさえ落ち込んでいた。
感染拡大地域の畜産農家は移動制限の影響で飼料不足に直面し、また一部は鳥インフルエンザの感染拡大で鶏の処分も迫られている。
主な中国向け食肉供給国であるブラジルの食肉業者は、ASF、新型コロナウイルス、鳥インフルが重なって中国消費者の行動が変わり、ブラジル産食肉への需要が増えるかもしれない、との見方を示している。
ASFの影響で中国の豚肉生産が落ち込んだため、ブラジルと米国の中国向け豚肉輸出は昨年急増した。また多くの専門家は、第1段階合意に基づき中国が輸入する高額品目の一つが米国産豚肉になると予想している。
中国では通常、全食肉消費の約75%を豚肉が占める。ASF感染拡大に先立つ17年、中国国民1人当たりの豚肉消費量は、SARSの感染が拡大した02年の平均を25%近く上回っていた。
米中の農産物貿易も当時に比べて大幅に増えている。米農産物輸出全体に占める中国向けの割合は、02年のわずか4%から17年には15%に拡大した。大豆に至っては、18%から57%に急増している。
(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」
Opinions expressed are those of the author. They do not reflect the views of Reuters News, which, under the Trust Principles, is committed to integrity, independence, and freedom from bias.