アングル:膨張続ける米企業の役員報酬、株主や政治家から異議

アングル:膨張続ける米企業の役員報酬、株主や政治家から異議
 11月8日、人材会社スペンサー・スチュアートによると、S&P総合500種株価指数企業で、代表権を持たない取締役の平均年間報酬は昨年に前年比2%増の30万4856ドルと過去最高を更新した。写真はニューヨークのコロンビア大学のイベントに登壇したビル・ゲイツ氏(左)とウォーレン・バフェット氏。2017年1月撮影(2019年 ロイター/Shannon Stapleton)
[ボストン 8日 ロイター] - 人材会社スペンサー・スチュアートによると、S&P総合500種株価指数企業で、代表権を持たない取締役の平均年間報酬は昨年に前年比2%増の30万4856ドルと過去最高を更新した。10年前からは43%増えた。実際には株式報酬のおかげで、一部の取締役はもっと多くの報酬を得ている。
バイオテクノロジーのリジェネロン・ファーマシューティカルズの取締役は昨年、平均で120万ドルだった。これには会長の600万ドルを超える報酬を含めていない。
金融ゴールドマン・サックス・グループの場合は報酬平均が昨年、59万9279ドルだった。S&P総合500種の金融機関では最も多い額だ。一方、スペンサーによると、S&P500種企業が電話会議も含めて昨年開いた取締役会は平均7.9回で、10年前の9回から減っていた。
<巨額の報酬、企業も神経質に>
膨張を続ける米企業の取締役報酬に、新たな批判が噴出している。来年の米大統領選で民主党候補指名を目指すウォーレン上院議員は、格差問題への対処を目指すとして取締役に狙いを定めた。同氏の提案には富裕層課税に加え、米企業の取締役の少なくとも40%に従業員代表を選出することが盛り込まれている。
投資家も、取締役会が自ら設定するのが一般的である役員報酬に反感を強めている。取締役の高額報酬に異議を唱える株主訴訟も増えている。
より多くの企業が年次株主総会の決議案に役員報酬案件を入れるようになるだろう、と語るのは、企業統治の分析などを手掛けるESGaugeのシニアアドバイザー、ポール・ホジソン氏だ。「企業内でも役員報酬にかなり神経質になる傾向が出ている。並外れた報酬は、従来よりも注目を浴びるようになっている」という。
助言会社ウィリス・タワーズ・ワトソンによると、同業のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシズ(ISS)とグラス・ルイスがこうした株主要求を支持する姿勢を示しており、企業の中には取締役報酬に限度を設定する動きが出てきた。ウィリスの調査では、限度を設定する企業の比率は2017年の55%から18年は63%に上昇した。
一部の取締役にとって、取締役であることは定例の取締役会に出席することでしかない。しかし、専門家に言わせれば、取締役の職務はもっと多くの労力を要するはずだ。
全米企業取締役協会(NACD)は取締役会メンバーが自らの責務を果たすには少なくとも年間250時間が必要と推計している。工場や事務所の訪問や、関係書類を読みコメントすることが求められるからだ。
リジェネロンの取締役クリスティーン・プーン氏は昨年、21回の会合に出席。うち10回は報酬委員会で議長を務めた。
一方、ソフトウェア開発会社ローパー・テクノロジーズの開示によると、同社の取締役は年間で少なくとも15日は取締役会に参加したとしている。昨年の平均報酬は91万ドルで、1日当たりの報酬は6万ドル超。同社は、すぐれた業績への貢献を反映したものだと説明している。
<ビル・ゲイツ氏は低額報酬>
取締役報酬が低く抑えられていることを誇示する企業もある。マイクロソフトの創設者ビル・ゲイツ氏が昨年、ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハザウェイの取締役として受け取った報酬は、わずか3300ドルだった。
スペンサーによると、ファッション大手ラルフ・ローレンの取締役は昨年、報酬のほぼ全額を現金で受け取り、報酬額は同業者を大きく下回る10万7299ドルだった。
比較的規模が小さく知名度の高くないバイオ医薬品企業が最大級の報酬を支払う例もある。バーテックス・ファーマシューティカルズは昨年、取締役に1年後に付与される制限付き株式報酬として40万ドルを支払った。平均取締役報酬は61万3128ドルだった。
バイオテクノロジーのリジェネロンの広報担当者は同社の高額報酬について「当社の取締役の質は比類なき水準にある。半分余りは米国科学アカデミーの会員で、2人はノーベル賞受賞者だ」と説明した。
(Tim McLaughlin記者)

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