コラム:米景気にリセッションの予兆か、市場は利下げ織り込む
John Kemp
[ロンドン 17日 ロイター] - 政策当局者らは米景気が良好な状態にあると唱えているが、ほとんどの伝統的な指標に照らすと、米国が1年以内にリセッション(景気後退)に陥るリスクは高まっている。
ニューヨーク連銀のイールド・カーブ・モデルによると、2020年5月にリセッション入りする確率は現在28─29%程度だ。このモデルは期間3カ月の米政府短期証券と期間10年の米国債の利回り差に基づいている。
さほど高くない確率に見えるかもしれないが、直近の3回のリセッションでは、1年前の段階でこの確率が38%(2008年)、26%(2001年)、31%(1990年)だった。
過去60年で見ると、この確率の中央値はわずか8%。また、1959年以来の分布(最も確率の低いものを1パーセンタイル、最も高いものを100パーセンタイルとして、データを1から100まで並べる分布)において、今回の確率は87パーセンタイルに位置している。
フェデラルファンド金利先物は現在、今年末までに25ベーシスポイント(bp)の利下げが実施される可能性を100%織り込んでいる。
米政府短期証券と米国債の利回りは、物価連動債を含め、期間6カ月から10年まで全年限で絶対値が低下している。
期間の長い方が短い物より低下スピードが速く、徐々に「逆イールド」化が進行している。米連邦準備理事会(FRB)幹部やホワイトハウス、アナリストが楽観的な見方を示しているにもかかわらず、逆イールド化の流れは反転の兆しを見せていない。
<今回は違う>
イールドカーブに基づくモデルについては、量的緩和によって国債市場が歪められていることを理由に「今回は当てはまらない」と主張する市場関係者もいる。
このモデルはトレーダーの予想に基づいているため、今後発表される経済指標が良好なら変化し得る、との指摘もある。
直近の連邦公開市場委員会(FOMC)では、最も確率の高いシナリオは景気拡大の持続である、との結論が示された。
しかしこのモデルは、景気サイクル終盤におけるリセッション入りを予想した立派な実績があるし、サイクル中盤において、FRBに利下げを促すほどの景気減速が訪れることを告げるという点でも相当な成績を挙げている。従って軽々に無視していいものではない。
他の資産価格の動きも、米国と世界経済が1年以内に深刻な失速もしくはリセッションに直面するとの見方と整合的だ。
米中貿易戦争の影響を恐れ、中国の人民元は対ドルで急落した。
国際通貨基金(IMF)はすべての先進国の2019年の成長率見通しを、1月時点から平均0.2%ポイント、昨年10月時点からは平均0.3%ポイント、それぞれ下方修正した。
ロシア、インド、ブラジル、メキシコ、サウジアラビア、ナイジェリア、南アフリカなど大半の主要な新興国についても今年の見通しを下方修正している。
複数の場所で石油生産に支障が生じているにもかかわらず、石油のスポット価格は横ばいで推移している。トレーダーは、景気減速によって消費の伸びも鈍ると予想しているからだ。
米国と世界の経済がリセッションを免れ、年内に幾分勢いを取り戻すとすれば、資産価格やコモディティ価格は大きく変化しなければならないだろう。
しかし今のところ、経済成長を巡るリスクがFRBその他の中銀に利下げを促すに十分なほど深刻なものになるとトレーダーは予想しており、そうした懸念がコモディティ価格を押し下げている。
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