アングル:消えた冷凍ポテト、活用されない米国の余剰ジャガイモ

Lisa Baertlein
[24日 ロイター] - 米首都・ワシントンに住むレクシー・メイユスキーさん(25)はここしばらく、近所のスーパーマーケットで冷凍フライドポテトが見当たらず困っている。新型コロナウイルスの感染拡大による外出制限で、買いだめが起こった影響だ。
その頃、ワシントン州で農業を営むマイク・ピンクさんは3万トンものジャガイモを前に、地中に埋め戻してしまうべきかと頭を抱えていた。本来ならマクドナルドやウェンディーズなどのファストフード・チェーン用にフライドポテトに加工され、数百万ドルの収入をもたらすはずの作物だ。
米国の食品サプライチェーンは、小売店向けと飲食店向けに分かれて特化が進み、融通の利かない構造になっている。新型コロナ危機で需要が急変した今、店頭では品切れ、農家では作物の廃棄というちぐはぐな光景が生まれたのはこのためだ。
ニールセンによると、4月4日までの4週間に生鮮食品店での冷凍フライドポテトの売上高は78.6%も急増し、多くのスーパーで品切れになった。
建設現場の監督をしているメイユスキーさんの自宅では、フライドポテトのストックが底を突き始めている。だが、自宅近くのスーパー2軒では「フライドポテトが1袋も見当たらない」。
ファストフード店での食事や学校のカフェテリアでの昼食に慣れた米国民にとって、冷凍フライドポテトは家にあると安心するし、実際手軽で、長く保存もできるため、外出制限中には格好の日常食だ。
飲食店向けのパッケージはかさが巨大なことが、小売店向けに転用する最大の障害となっている。しかも、業務用は小売り用商品で食品医薬品局(FDA)が義務付ける材料や栄養成分の表示がなく、レジで必要なバーコードも付いていない。
FDAはラベルの規制を一時的に緩和するとしているが、それでも飲食店向けの卸売業者が仕様を小売り用に切り替えるには、大きな壁が残る。梱包やラベリングの設備は高価で、プラスチック製のパッケージも供給が不足しているのだ。
<冷凍庫が満杯>
スーパー用冷凍フライドポテト大手、クラフト・ハインツ傘下のオレアイダは、供給拡大を急いでいる。クラフトの広報担当者は「オレアイダの工場は需要に追いつくため、フル稼働している」と述べた。
一方で、ファストフード店向けに冷凍フライドポテトを納入するマケイン・フーズやシンプロットといった業者は、農家へのジャガイモの注文をキャンセルしている。
農家や専門家によると、こうした業者の冷凍庫はフライドポテトやハッシュドポテトで満杯で、倉庫の棚はジャガイモでぎゅうぎゅう詰めだ。
米国のレストランは40%が休業中で、学校も休校、ホテルや職場も閉まっているとあって、業者の需要は減少した。ファストフード店はドライブスルー店舗しか営業していない。
農家のピンクさんは、ファストフード店向けの卸売業者から1000エーカー分のジャガイモの注文をキャンセルされた。これらを育てるのに既に250万ドル(約2億6900万円)を投資済みだが、誰かに販売する準備を整えるには、あと150万ドル(約1億6140万円)かかる。育ったジャガイモは砕いて地中に埋め戻さざるを得ないかもしれない。
「投資を続けるべきか、投資を止めて損失を最低限に抑えるべきか。ひどいもんだ」
全米ジャガイモ協会によると、現在7億5000万ドル(約807億円)ないし13億ドル(約1398億8000万円)相当のジャガイモと加工品がサプライチェーンで目詰まりを起こしている。
ラボバンクの食品アナリスト、JP・フロッサード氏は「こんなことが起こるとは、だれも想像できなかった」と語った。
コンサルタントや小売業者によると、トイレットペーパー、清掃用品、食肉などは、飲食店向けの商品が小売業者に流れるようになったが、他の多くの商品はまだだ。
米国では大半の飲食店事業者がスーパーマーケットと接点を持たず、そのことが問題を深刻化させている。国際飲食業物流業協会(IFDA)のマーク・アレン代表は、供給先を変えるのは「非常に骨の折れる仕事だ」と指摘。需要の先行きが不透明なため「投資を正当化しにくい」と話した。
(Lisa Baertlein記者)

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