アングル:換金売りとアルゴリズム取引、米市場が大荒れ

アングル:換金売りとアルゴリズム取引、米市場が大荒れ
3月18日、米国内で新型コロナウイルス感染が拡大し始めて以来、米金融市場の激しい動揺は一向に収まる気配を見せない。写真は13日、ウオール街で撮影(2020年 ロイター/Lucas Jackson)
[18日 ロイター] - 米国内で新型コロナウイルス感染が拡大し始めて以来、米金融市場の激しい動揺は一向に収まる気配を見せない。投資家は現金確保に奔走し、ボラティリティーが高まる中でアルゴリズム取引が発動。流動性枯渇という状況に陥っている。
米国株は下げに下げて、S&P総合500種<.SPX>は2月19日に付けた過去最高値から約29%も下落した。米国債利回りは急騰。シーポート・グローバル・ホールディングスのマネジングディレクター、トム・ディガロマ氏は「債券市場で現在進行している出来事のほとんどは、株式投資で生じた損失を穴埋めするための買い持ち解消だと考えている」と述べた。
同氏は今の値動きについて「株安・債券高という『リスクオフ』からは大きくかい離しており、(債券の)換金売りで、できるだけ多くの現金を取ろうとしている」と説明する。
新型コロナの感染拡大によってビジネス活動は停止し、人々は家に引きこもるしかなく、資金繰りに問題を抱える企業もでてきた。こうした状況に株式と債券の大規模な価格調整が誘発され、低ボラティリティーと株高に依存していた取引行動を直撃してしまった。
モルガン・スタンレー・インベストメント・マネジメントのシニア・グローバル債券ポートフォリオマネジャー、ジム・キャロン氏は、市場参加者は質の高い債券など「売れるものを売ろうとしている。その他の資産は換金化が必要になる場合に流動性に欠けるからだ」と指摘した。
過去数日間の売り圧力の一部は「リスクパリティー戦略」などを組み込んだコンピューターのシステム取引が原因だ。リスクパリティー戦略は、債券と株式の双方を買い持ちにするなどして、ポートフォリオ構成資産にリスクを分散、リスク量を均等化させ、資産全体のリスクを低下させることを目指す。しかし、こうした戦略は、ボラティリティーの高まった時間が長引くと、自動的なプログラム売りが発動されて全資産が一斉に売りに出され、相場の下げを加速してしまう。
ラボバンクの商品ストラテジスト、ライアン・フィッツモーリス氏は「リスクパリティーが多くの相場変動の引き金になった。この取引環境ではコンピューター対コンピューターという構図になっている」と指摘した。
ただリスクパリティー戦略の資産運用担当者からは、特に1日当たりの取引で見れば、自分たちなど微々たるもので、市場全体には影響していないとの反論が聞かれる。
ドイツ銀行のストラテジストチームの推計によれば、リスクパリティー戦略で運用されている資産は3000億-4000億ドル。これに対し米国の国債市場と株式市場の規模はそれぞれ17兆ドルと約21兆ドルだ。ボラティリティーの変化に反応する戦略に定義を広げたところで、運用資産は1兆ドル前後という。
それでも投資家の中には、こうした運用者から売りが殺到すれば、相場下落に拍車を掛けるだけのインパクトがあるとの見方もある。
ジャナス・ヘンダーソン・インベスターズのグローバル債券共同責任者ニック・マロウトソス氏は流動性の枯渇について、リスクパリティー取引の巻き戻しのほか、極度に壊れてきた市場で必死に大損を防ごうとする投資家の存在などを挙げた。
市場のこうした状況はいつ収束するのか。結局、新型コロナの収束を待つしかないという以上のことを言える人はほとんどいない。米連邦準備理事会(FRB)による流動性供給が、最終的にうまく機能するとの期待も乏しい。
ジャニー・モンゴメリー・スコットのチーフ債券ストラテジスト、ギイ・ルバ氏は「追い込まれた投資家の取引によって、次は銀行など市場仲介業者から途方もない量の資金が流出してしまうと思う。これが金融システム全体に波及するのはもう間もなくだ」と警告した。
(Karen Brettell、Megan Davies、Karen Pierog記者)

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