コラム:トランプ氏、壁建設で「しっぺ返し」食らう訳
Lincoln Mitchell
[22日 ロイター] - メキシコ国境の壁建設費を巡るトランプ米大統領と議会民主党の対立は、大統領に政治的なダメージを与えている。大半の米国人は、史上最長となった一部政府機関閉鎖の責任は大統領にあると考えている。
その上、トランプ氏は窮地に追い込まれている。選挙公約の目玉だった壁の建設を断念したと見られるのを避けつつ、政府機関閉鎖の解決策を見出す必要があるからだ。
トランプ氏は閉鎖を解除するため、幼少期に親と不法入国した「ドリーマー」と呼ばれる若者などの在留資格を延長するという交換条件を提案したが、民主党は拒否した。
トランプ氏にとって厄介なのは、壁建設に固執すれば支持層には受けるかもしれないが、実際に建設すると自身が政治的に悲惨な目に遭いそうなことだ。移民流入に反対する同氏の支持層は、メキシコ国境は穴だらけで、不法移民の大量流入を許していると考えている。
しかし実際に壁の建設が始まれば、2020年の大統領選でトランプ氏が再選を果たすのに必要な無党派層の票を取り逃す程度ではすまない問題が生じるだろう。
第1に、大半の移民専門家は、壁を建設してもトランプ氏が指摘する問題は何1つ解決できないとの見解で一致している。不法移民労働者の数は近年減少している。米国に流入するドラッグの大半は、既存の検問所もしくは通関手続き地から持ち込まれている。
2001年9月11日の米同時多発攻撃以来、国外から違法に入国したテロリストはほとんどいない。そしてトランプ氏の主張とは裏腹に、不法入国する人々のほとんどが犯罪者というわけではない。暑く人けのない地域に壁を建設しても、反移民運動家らが解決を求めている問題のどれにも対処できないだろう。
第2に、壁の建設費は極端に高くつく。トランプ氏は着工のために約50億ドルの予算を求めているが、完工するにははるかに大きな支出が必要となる。癇癪(かんしゃく)持ちの象徴として後世に残るであろう壁を建てるより、50億ドル、100億ドル、いや200億ドルの予算を気候変動やオピオイド中毒問題、医療といった本当に大切な問題の対策に充てるほうが、政治的な見地でさえ、ずっと賢い資金の使い道となるだろう。
第3に、壁はおそらく完成しない。次の大統領選でトランプ氏が再選されなければ、民主党の大統領は就任後真っ先に壁の建設を中止するだろう。再選を果たした場合でも、壁建設に対する世論の支持は強くないため、議会民主党は予算を削ることが可能だろう。つまり国境の一部に、建設途中の錆びついた数マイルの壁がいつまでも残り、トランプ政権の記念碑となる可能性が現実としてあるのだ。
第4の問題は、だれが壁を建てるのかということだ。
このプロジェクトを落札した企業は、一部は熟練労働者を雇う必要があるが、コストを抑えるため、残りの部分については賃金の安い労働者を探さなければならない。過去数十年の米国の施設建設について研究した人ならだれでも、建設業界が主にメキシコからの不法移民労働者に大きく頼っているのを知っている。壁を建設する国境付近では、こうした労働者を雇いたい誘惑は非常に強いだろう。実際にそうした事態になれば、トランプ氏の支持率上昇につながりそうもない。
民主党は壁建設費の承認に応じる姿勢をほとんど見せていないが、妥協と引き換えにトランプ氏から大きな政治的譲歩を引き出せれば、貴重な戦略的成果を得られるかもしれない。民主党は、国境警備について交渉するのはトランプ氏が政府機関を再開してからだと突っぱねている。
完成しそうもなく、最終的にトランプ氏の恥となりそうな壁と引き換えに、例えばドリーマーの在留資格延長にとどまらず恒久的な市民権獲得を引き出せるなら、民主党のペロシ下院議長にとって悪い結末ではないだろう。皮肉なことに、議会民主党が一歩も譲らなければ、トランプ氏は屈辱を免れるかもしれない。
*筆者はニューヨークとサンフランシスコを拠点とする文筆家で学者。コロンビア大政治科学部で教えており、「Baseball Goes West: the Dodgers, the Giants and the Shaping of the Major Leagues,Kent State University Press,2018」(原題)などの著作がある。
*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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