コラム:映画館に行かない米国民、コロナ後も戻らず
Jennifer Saba
[ニューヨーク 29日 ロイター BREAKINGVIEWS] - あかりの消えた映画館が映し出すのは、近未来の光景かもしれない。新型コロナウイルスの感染拡大によってAMCエンターテインメントなどが運営する映画館が完全に閉鎖される以前から、映画館の入場者数は減る一方、ネットフリックスなどの配信サービスが台頭していた。AMCはこの流れに抵抗しているが、米国の映画館が再び満席になると想像するのは、サイレント映画のごとく過日のものなのかもしれない。
だれもが家に閉じ込められている今、ハリウッドは映画館を一足飛びにする方法をあれこれ考える時間がたっぷりある。コムキャスト傘下のNBCユニバーサルは10日、アニメ映画「トロールズ・ワールド・ツアー」を家庭への直接配信方式でリリースするとともに、既に映画館で上映中だったその他の作品数本について、20ドル(約2100円)でレンタル可能にした。
映画館を介さない配信は製作会社の利益にかなう。映画館のチケット収入は映画館と製作会社で折半するのが一般的だ。ネットフリックスやアマゾンのような配信サービスや、従来型のケーブルテレビを経由した場合には、製作会社に収入の約80%が入る。
「トロールズ」シリーズの新たな続編となる「トロールズ・ワールド・ツアー」は、初日と初週末の収入が、ユニバーサルの家庭娯楽部門における過去最高を記録。デジタルリリースがこれまでに打ち立てた記録的収入の約10倍も稼ぎ出した。米ウォールストリート・ジャーナル紙が先週報じたところでは、この作品の収入は現在1億ドル近くに達している。「トロールズ」シリーズ第1弾が米国内で稼いでいる興行収入は、現在まで累計1億5400万ドルに上るが、コムキャストに入る収入で見れば、最新作の方が実入りは良い。
ネットフリックスも物事のやり方を変えた立役者だ。同社は大半のオリジナル作品を映画館の頭越しに配信し、「ローマ」のような作品を潜在顧客の掘り起こしに使ってきた。
ロックダウン(封鎖)は同社の加入者数の伸びを加速させた。ウォルト・ディズニー、コムキャスト、AT&Tといった大手スタジオの親会社も、多くが配信サービスに乗り出している。ディズニーは次回作「アルテミス・ファウル」について、映画館の再開を待たず6月にオンラインの「ディズニー+(プラス)」でリリースすることにした。
米国では、映画チケットの販売枚数が2002年の16億枚をピークに減少の一途をたどっている。米国、欧州、そして世界最大の映画館運営会社を自認するAMCはロックダウン以降、この流れに抗っている。
AMCは28日、デジタルリリースについてのNBCユニバーサル側のコメントを受け、同社子会社の作品上映をボイコットすると発表した。翌日、AMC株は20%超も上昇したが、株式時価総額は13年の上場直後の20億ドルに比べ、4分の1程度にとどまっている。パンデミック(世界的な大流行)がもたらした新たな傷は、もう治らないのかもしれない。
●背景となるニュース
*ウォールストリート・ジャーナル紙が28日報じたところでは、NBCユニバーサルが10日にリリースした「トロールズ・ワールド・ツアー」はレンタル収入が1億ドル近くに達した。デジタルリリース作品として、初日と初週末の収入記録を塗り替えた。
*コムキャストは30日に第1・四半期決算を発表する。
*AMCエンターテインメントは28日、今後は米国、欧州、中東の映画館でユニバーサル映画を上映しないと発表した。NBCユニバーサルの最高経営責任者(CEO)が、製作スタジオと映画館の「ビジネスモデルを破る」ものだったため、としている。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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