焦点:米軍縮小に身構える欧州、計画浮上でロシア抑止に不安

焦点:米軍縮小に身構える欧州、計画浮上でロシア抑止に不安
6月8日、トランプ米大統領がドイツ駐留米軍の規模を9500人減らす計画だと伝えられ、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の心をかき乱す新たな要素となっている。写真は2019年12月、ロンドン近郊で開かれたNATO首脳会議に出席したトランプ氏(2020年 ロイター/Kevin Lamarque)
[ブリュッセル 8日 ロイター] - トランプ米大統領がドイツ駐留米軍の規模を9500人減らす計画だと伝えられ、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の心をかき乱す新たな要素となっている。だがこれが実行されたとしても、欧州での米国の軍事的な基盤は、ロシアを抑止する上で依然として十分な強固さを維持するだろう。
なぜなら、欧州全域には引き続き約5万人の米国兵士が存在し、米政府はなお多額の欧州関連防衛予算を出しているからだ。
米政府高官の1人が5日に説明したように、他のNATO加盟国の拠出額が増加したおかげで、米国としてドイツに大規模な緊急展開部隊を置いておく重要性が薄れたこともある。
当のドイツからは、駐留米軍規模の縮小計画が伝えられたことにろうばいする声が聞かれ、ある国会議員は「両国関係の基本部分」を揺さぶると警告した。しかしNATOが、欧州の東側をロシアから守るという中核的な任務に決して注力できなくなるわけではない。
専門家は、米軍のドイツ駐留部隊が縮小する場合でも手続きには時間がかかり、一部はよりロシアに近いポーランドに移動する可能性があると予想する。そもそもトランプ氏が11月の大統領選挙で敗北すれば、計画自体が撤回されてもおかしくない。
NATOのストルテンベルグ事務総長は8日、トランプ氏と電話会談したと認めたものの、部隊規模の変更を話題にしたかどうか直接コメントしなかった。ストルテンベルグ氏はロイターの電話インタビューで「われわれは常にそうしている通り、米国の欧州における(軍事)プレゼンスについて協議した。米国の欧州におけるプレゼンスは過去何年かで増大しており、ドイツだけにとどまらなくなっている」と語り、ポーランドやバルト諸国、スペイン、ノルウェー、黒海などにも展開していると説明した。
NATO加盟国は、トランプ氏の予測不能な行動に慣れてきた面もある。トランプ氏がNATOの存在価値に疑問を呈し、防衛費の負担が少ない国を「怠慢」と決めつける振る舞いは、今に始まったことでもない。
民間シンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)のアナリスト、ニック・ホイットニー氏は「こうした部隊規模縮小が性急になされるとは非常に想定しにくいように思われる」と冷静にみている。
<変わらぬ実態>
ホイットニー氏によると、欧州では今回の報道に関してまず、本当かどうか疑わしいとの反応が出たが、そのひとつの理由はトランプ氏の計画だからだという。新型コロナウイルス感染のパンデミック(大流行)や人種差別問題などを巡る対応で批判を浴びているトランプ氏が、話題をそらすために政治的に持ち出してきたものにすぎないとの見方を示した。
もっともドイツの政策担当者は衝撃を受けている。ドイツ政府で欧米間の調整役を務めているペーター・バイエル氏はロイターに「われわれはまだ『離婚』に至っていないとはいえ、既に協力の度合いは以前よりずっと低下している。足元で起きている事態は、ドイツや欧州、あるいは米国の利益にならない以上、悲しむべきことだ」と話した。
NATO加盟国は、トランプ氏が同盟相手への不平不満を口にすることで、NATO自体に対する大衆の支持が損なわれるのを心配している。
パリに拠点を置く戦略研究財団(FRS)で特別顧問を務めるフランソワ・エイスブール氏は、トランプ氏のドイツ駐留米軍縮小計画が「実際に大きな変化をもたらすことはない」と断りつつ、これを手始めにロシアのプーチン大統領が喜ぶような第2、第3の政治シグナルが送られるだろうと多くの人がみなすことに問題があると分析。「ロシア側がほくそ笑んでいるのは間違いない」と述べた。
それでもトランプ氏はNATO批判を口にしながら、欧州関連の防衛予算を2018年度の47億ドル(約5000億円)から19年度は65億ドルに拡大した。20年度は59億ドルを議会に要請している。
またロシアが14年にウクライナからクリミアを編入して以来、米政府はバルト諸国やポーランド、黒海に軍を派遣してより多くの演習を実施するとともに、NATO軍の近代化を支援してきた。
元NATO高官のジェイミー・シア氏は「NATOの立場からみて心強い材料は、(トランプ政権下での)米国の(欧州に対する)コミットメントは根幹の部分で著しくしっかりしているということだ。抑止力は、さまざまな発言にではなく、そうした場所に存在する」と強調した。
(Robin Emmot記者、John Chalmers記者)

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