アングル:米株は「嵐の前の静けさ」か、北朝鮮以外にもリスク

アングル:米株は「嵐の前の静けさ」か、北朝鮮以外にもリスク
 8月11日、米国株はここ数年、極めて安定的に推移してきたが、10日は米朝関係の緊迫化で急落。投資家の間では、今後も世界市場を揺さぶるような予想外のショックが待ち受けているのではないかとの警戒感が芽生えている。写真はNY証券取引所前のウォール街の標識。NY市で2日撮影(2017年 ロイター/Carlo Allegri)
[ロンドン 11日 ロイター] - 米国株はここ数年、極めて安定的に推移してきたが、10日は米朝関係の緊迫化で急落した。投資家の間では、今後も世界市場を揺さぶるような予想外のショックが待ち受けているのではないかとの警戒感が芽生えている。
「ボラティリティが低下しているため、弊社のリスクモデルは日々、もっとリスクを取れと告げてくる。しかし現在の市場環境を考えると、むやみにモデルに従わないよう細心の注意を払う必要がある」と語るのは、アムンディ(ロンドン)の通貨運用責任者、ジェームズ・クウォック氏だ。
中央銀行による大量の資金供給に支えられ、世界の金融市場はこの数年間、抜群の安定感を示してきた。大半の資産クラスへの資金流入は、世界金融危機前のピークをも上回っている。
株式投資家の不安心理の度合いを示すシカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ・インデックス(VIX指数)と、その債券市場版であるメリルリンチ・オプション・ボラティリティ指数<.VOL>は、11日までの週こそ跳ね上がったが、概ね過去最低水準近くに張り付いている。
しかしこの裏には、穏やかな市場環境が長く続くことをあてにした投資銀行による大量のオプション取引が隠れていることを忘れてはいけない、とアナリストは釘を刺す。
加えて、ボラティリティの低下によって儲ける「インバース・ボラティリティ」ETF(上場投資信託)の人気が高まり、今年は総額が倍増した。
モルガン・スタンレーのストラテジストらによると、このようにボラティリティの低位安定に賭ける取引が大量に行われているため、わずかな相場変動によってこれらの一部が巻き戻しを余儀なくされ、金融システムに衝撃波が走る可能性もある。
ボラティリティの世界では、日々の変動率が重要だ。なぜなら上場型商品の多くは変動率に基づいて毎日リバランス(資産配分の調整)を繰り返し、大きな変動があれば自動的に何かを売る必要が生じるからだ。
「低いボラティリティが高いリスクを生み出すのはこのためだ」とモルガン・スタンレーの定量デリバティブ・ストラテジスト、クリストファー・メトリ氏は言う。
メトリ氏の推計では、VIX指数が12ポイント上昇すると、S&P500種総合株価指数は3.5%下がる可能性がある。
投資家を警戒させているのは、ボラティリティ上昇の可能性だけではない。英国の欧州連合(EU)離脱が混乱状態に陥る恐れもあれば、カタール危機が制御不能になって石油価格に影響を及ぼすことも考えられる。来年退任するイエレン米連邦準備理事会(FRB)議長の後任を巡る思惑ですら、市場を不安定化させかねない。
コンサルタント会社、インターナショナル・eケムのポール・ホッジズ会長は「現在の低ボラティリティは嵐の前の静けさであり、企業が活動している現実世界、あるいは拡大しつつある大きな不確実性を反映していない」と語る。
中央銀行が間もなく大規模な金融緩和を解消し始めると、予想外の結果を招く可能性もある。
また、大きなリスクの1つとして、株式指数に連動するパッシブ型ファンドが世界の株式市場に及ぼす影響の拡大が挙げられる。
S&P総合500種構成銘柄のうち、パッシブファンドが保有する割合は2008年の世界金融危機当時から約2倍の37%に達している。相場が急落した際、大手パッシブファンドの解約が下落に拍車を掛ける恐れがある。
英国を拠点とする大手債券ファンドの営業責任者によると、新興国資産に投資するETFに突如解約が殺到する事態を見据え、安値で株を拾えるように資金を確保している顧客もいる。
「市場はどんなリスクを見落としているのか、という問い合わせが数多く寄せられ、夜もおちおち眠れない」と、この責任者は話した。
(Saikat Chatterjee記者 Vikram Subhedar記者)

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