アングル:米企業自社株買い、今年は株価下支えの威力減退か

アングル:米企業自社株買い、今年は株価下支えの威力減退か
1月10日、昨年は米企業による自社株買いが株価を下支えしたが、今年は昨年ほどあてにできないようだ。ニューヨーク証券取引所前で2014年6月撮影(2019年 ロイター/Carlo Allegri)
[ニューヨーク 10日 ロイター] - 昨年は米企業による自社株買いが株価を下支えしたが、今年は昨年ほどあてにできないようだ。
米国株が最近不安定に推移しているため、企業は一段と自社株買いに力を入れ、株価を支えるとの期待が市場にはある。しかし多くのストラテジストは、企業利益の伸び鈍化と減税効果の減退により、自社株買いの勢いが衰えるとみている。
クレセト・ウェルス・アドバイザーズのジャック・アブリン首席投資責任者は「2018年に米企業は発行済み株式の2.8%前後を買った。相場の大きな下支えとなり、その効果は配当より大きかった」と説明。今年については「自社株買いの軍資金が減るだろう。キャッシュフローの伸びが鈍るだろう」と述べた。
昨年の自社株買いは過去最高となった見通しだ。S&P・ダウ・ジョーンズ・インダイシズのデータによると、1─9月の自社株買いは5834億ドルで、2007年につけた年間最高記録の5891億ドルに迫った。
それでも米国株は9月末の高値から20%近くも下落し、S&P総合500種株価指数<.SPX>は年間で6.2%安と、過去10年で最悪の成績だった。もっとも、自社株買いがなければもっと下げていた可能性はある。
<海外利益の還流鈍る>
ストラテジストによると、米企業は豊富なキャッシュを抱えている上、政治・経済環境が不透明な中で、配当や設備投資よりも自社株買いを優先する傾向があるため、今年も自社株買いの規模は大きそうだ。
ゴールドマン・サックスの推計では、2018年通年の自社株買いは前年比44%増の7700億ドルで、19年は伸び率が22%に減速して9400億ドルとなる見通し。
ただ、昨年は海外利益の本国還流に対する税制優遇と、法人税率引き下げにより企業のキャッシュが増えていた。今年はこうした効果が消えるため、自社株買いの威力も衰えそうだ。
商務省のデータによると、米多国籍企業は昨年第1・四半期に約2950億ドルの海外利益を米国に還流させたが、その後はペースが失速し、第3・四半期は約930億ドルにとどまった。
JPモルガンのストラテジスト、Nikolaos Panigirtzoglou氏によると、昨年1─9月には本国に還流した利益の約3分の1にあたる1900億ドルほどが自社株買いに充てられた。
減税が実施された昨年に比べ、今年は企業利益の伸びが鈍りそうなことも自社株買いの減速が見込まれる原因だ。リフィニティブのIBESによると、S&P500社の増益率は今年6.7%と、昨年実績見込みの23.5%から鈍化するとアナリストは予想している。
また、米中貿易摩擦が解決に至った場合にも、自社株買いを抑える要因となる可能性がある。
現在は貿易摩擦を巡る不透明感が強いため、企業は設備投資に慎重となり、余剰資金を自社株買いに充てている。しかしいったん不透明感が晴れれば、設備投資に軸足を移すのではないかとの指摘がある。
<強気相場に貢献>
2009年3月に始まった米株の強気相場では、自社株買いが大きな支柱だった。ウェルズ・ファーゴのグローバル株式ストラテジー責任者、オードリー・カプラン氏によると、S&P500種指数の時価総額はこの間15兆ドル増えたが、500社の自社株買いは約4兆5000億ドルで、3分の1程度を担った計算だ。
カプラン氏は、今年の自社株買い規模は昨年程度にとどまると予想する。ただ、ここ数カ月の株価急落で株価に値ごろ感が出て、企業は買い戻しやすくなったとも指摘した。
データトレック・リサーチによると、米企業はこれまで営業利益の40─60%を自社株買いに充てており、「最悪の時期」にしかこの下限を割り込んでいない。
このため同社の共同創設者ニコラス・コラス氏は、企業利益が減少するとしても、自社株買いは無くなるのではなく、利益と同じペースで減少するにとどまるとの見方を示した。
(Sinéad Carew記者)

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