焦点:ブラジルのボルソナロ政権、米の追加関税で中国に接近も

焦点:ブラジルのボルソナロ政権、米の追加関税で中国に接近も
 12月2日、トランプ米大統領が突如打ち出したブラジルからの鉄鋼・アルミ輸入への追加関税導入は、同国のボルソナロ大統領が目指す米政府との関係強化に打撃を及ぼし、中南米随一の経済国ブラジルが通商分野で米国の最大の競合相手である中国との距離を縮める可能性もある。写真は6月28日、大阪で撮影(2019年 ロイター/Kevin Lamarque)
[ブラジリア 2日 ロイター] - トランプ米大統領が突如打ち出したブラジルからの鉄鋼・アルミ輸入への追加関税導入は、同国のボルソナロ大統領が目指す米政府との関係強化に打撃を及ぼし、中南米随一の経済国ブラジルが通商分野で米国の最大の競合相手である中国との距離を縮める可能性もある。
トランプ氏は2日、ブラジルとアルゼンチンから輸入する鉄鋼とアルミに追加関税を課すと表明。寝耳に水の両国は慌てて説明を求めた。
ボルソナロ氏は昨年の大統領選でブラジル経済における中国の影響力拡大に警鐘を鳴らし、「ブラジルのトランプ」と呼ばれて勝利した。大統領就任後にはトランプ氏寄りの姿勢を一層強める一方、中国に対する批判は封印し、ブラジルにとって最大の貿易相手国である中国に対して現実的なアプローチを取った。
トランプ氏の追加関税表明はボルソナロ氏の米国への思いが届かなかったことを示唆しており、ボルソナロ氏の両面作戦は片方しか機能しなかった様相が濃くなっている。
米国とは対照的に、かつてとげとげしかったボルソナロ氏と中国の関係は改善し、ブラジルが先月行った沖合油田の開発権入札は、中国企業が落札して救いの手を伸ばすなど、具体的な成果が出ている。
トランプ氏がボルソナロ氏を繰り返し袖にしたことで、ブラジルが中国との間でより長期的で一貫性を持った、円滑な関係の構築に向かうのではないかとアナリストはみている。
ピーターソン国際経済研究所の上級研究員、モニカ・デ・ボレ氏は「中南米における中国の経済的な影響力の増大を懸念するなら、追加関税導入はどう考えても逆効果だ」と述べた。
コンサルタント会社コントロール・リスクスのディレクター、トマス・ファバロ氏は、トランプ氏との関係強化を目指したボルソナロ氏の取り組みは弾みが付いていないが、中国政府はブラジルとの戦略的な付き合いではるかにオープンな姿勢だと分析。「中国が政治的な違いを越えて、自分たちをブラジル政府の安定的な同盟国に位置付けようとしているのは明白で、こうしたメッセージはブラジルに十分届いていると思う」と述べた。その上で、トランプ氏の追加関税導入表明で「ボルソナロ氏が中国との関係強化に進むのではないか」と予想した。
<常に変わらぬ友好関係>
米国とブラジルが進める自由貿易協定を巡る協議に、追加関税がどう影響するかは見極めていく必要がある。
ボルソナロ氏がトランプ氏や米国に寄せる気持ちは習近平国家主席や中国への気持ちよりもずっと強い。しかしボルソナロ氏の10月の訪中や習氏の先月のブラジル訪問で中国との関係は改善している。
また、トランプ氏が来年の大統領選で敗北すればボルソナロ氏に批判的な民主党候補が次期大統領に就く可能性がある一方、習氏は当面、国家主席の座に留まりそうだとアナリストはみている。
ブラジルが先月実施した沖合油田の開発権入札では、ブラジル国営石油会社ペトロブラス以外の応札は中国海洋石油(CNOOC)<0883.HK>と中国石油天然気勘探開発(CNODC)の2社だけだった。
ブラジルと中国は昨年の貿易高が過去最高の1000億ドルに達し、関係の緊密化は必然でもある。中国はアフリカ豚コレラの流行で国内の豚飼育頭数が減少し、ブラジルからの豚肉輸入を増やしている。今年はブラジルの食肉加工工場45カ所に新たに輸出ライセンスを発行した。
ブラジルのジェトゥリオ・ヴァルガス財団のオリバー・ステンケル教授は「米国とブラジルの関係は危うくなっている。米国がブラジルから得られるものは多くないと理解し始めたからだ」と述べた。
ボルソナロ氏は近く、中国は何があっても変わらない友好国だと認めざるを得なくなるかもしれない。ボルソナロ氏の環境政策に懸念を抱く一部欧州諸国と同じように、米国もブラジルに背を向けつつあるからだ。
ボルソナロ氏は2日、トランプ氏に追加関税の見直しを求める考えを示し、「われわれの主張に耳を傾けてくれると確信している」と述べた。
しかし今のところ、トランプ氏が耳を傾けそうな兆候は乏しい。ボルソナロ氏は1月の大統領就任以来、トランプ氏に秋波を送り続けてきたが、見返りはほとんど得られていない。
ブラジルは先進国で構成される経済協力開発機構(OECD)への加盟を求めているが米政府の反応は冷たい。ボルソナロ氏はエタノールや小麦の貿易などの分野で米国の要求を飲み、ブラジル軍が懸念を示したにもかかわらず米軍基地の受け入れを検討している。
しかし米国は、9カ月におよぶ話し合いとボルソナロ氏からトランプ氏への直訴にもかかわらず、ブラジル産牛肉に対する禁輸措置を続けている。
中国がブラジルと米国の間のこうした摩擦に注目しているのは間違いない。
ブラジリアの外交筋は「追加関税を導入すれば他の陣営に付け込まれる隙が生まれる」と話した。
(Jamie McGeever記者)

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab