コラム:対話不能に陥ったFRB、資産拡大で真意伝わらず

コラム:対話不能に陥ったFRB、資産拡大で真意伝わらず
 1月30日、米連邦準備理事会(FRB)は、市場との対話ができない状況に陥っている。2019年3月19日、ワシントンで撮影(2020年 ロイター/Leah Millis)
Anna Szymanski
[ニューヨーク 30日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米連邦準備理事会(FRB)は、市場との対話ができない状況に陥っている。パウエル議長は29日の会見で、昨年9月以降のFRBのバランスシート拡大(これには10月半ばからの毎月約600億ドルの短期国債買い入れが含まれる)は量的緩和(QE)だとの見方を、改めて否定した。しかしそれがQEかどうかは主要な論点ではない。より重大なのは、FRBが自らのメッセージをコントロールできなくなっていることだ。
こんなことを言っても何の足しにもならないものの、パウエル氏は恐らく正しい。翌日物金利市場の円滑な取引確保を狙った短期国債買い入れは、金融危機後の景気・物価てこ入れのために実施した措置とは違う。問題は、FRBが短期国債購入を開始してから、S&P総合500種がおよそ10%上昇し、米国債市場で景気後退(リセッション)を予告するとされる10年物と3カ月物の利回り逆転(逆イールド)が発生した点にある。結果としてFRBの動きが金融緩和のように見えている。
FRBの対話を巡るトラブルは今に始まったわけではない。バランスシート縮小が「自動操縦」で進むと以前にパウエル氏が発言したことは、2018年末にS&P総合500種が8%前後も下落する大きな原因になった。そして今回、FRBの行動が幅広い議論を巻き起こしている。
パウエル氏には会見開始の直前に、かつての仲間からの援護射撃を受けた。ウィリアム・ダドリー前ニューヨーク連銀総裁が新聞への寄稿で、足元の資産価格上昇は昨年10月の利下げや貿易摩擦が和らいだことに起因する面が大きいとの見方を示したのだ。
数年前であれば、これは難解な専門的論争という域を出なかったかもしれない。しかし現在はまた、対話が金融政策の重要な一部になりつつある。景気拡大は過去最長の11年目に入っており、近く減速する公算は強まる一方だ。政策金利がゼロに近づくとともに、伝統的な金融政策手段は効果が薄れる傾向もある。
さらに米経済はこれまでのような動きではない。失業率は過去最低圏で、昨年の国内総生産(GDP)成長率は2.3%と議会予算局が推計する潜在成長率を上回った。しかし物価上昇率は、FRBが目指す2%には依然として届いていない。30日には再び逆イールドが起きた。だからこそ、政策金利を変更したり、金融緩和を休止するならば明確な説明が必要になる。パウエル氏は毎回の連邦公開市場委員会(FOMC)後に会見を開く態勢を確立してそうした説明に向けた環境は整えた。だが肝心の伝えたいことを市場に届けられなければ、実際には何の役にも立たない。 
●背景となるニュース
*FRBは29日までのFOMCで、政策金利を1.5-1.75%に据え置き、現在の金融政策運営姿勢は持続的な経済成長と頑健な労働市場を維持しながら、物価上昇率を対称的な2%の目標に戻す上で適切だと説明した。
*FRBは、レポ市場で昨年9月に金利が高騰したことを受け、10月半ば以降は毎月約600億ドル相当の短期国債を買い入れている。狙いは、銀行システムの超過準備増加だ。パウエル議長は、第2・四半期までには基調的な超過準備が十分な水準に達するはずだと述べた。
*食品とエネルギーを除くコア個人消費支出(PCE)物価指数の上昇率は11月1.6%、10月が1.7%。商務省が30日に発表した第4・四半期成長率は2.1%、2019年全体では2.3%だった。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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