焦点:米FRBの実体経済支援、長期成長力との兼ね合いが課題

[ワシントン 29日 ロイター] - 新型コロナウイルスの流行を受けて、米連邦準備理事会(FRB)が実体経済の直接支援に乗り出しているが、こうした速やかな対応の裏で、「米国の長期的な経済成長力を損なわずにどのように企業や労働者を支援できるのか」という議論が交わされている。
本来なら消滅するはずの企業や産業をFRBの対策で延命させれば、米経済の生産性が低下し、かえって回復が遅れるのではないかとの懸念が浮上しているためだ。
「バランスが非常に難しい」ーー。リッチモンド地区連銀のバーキン総裁は最近のインタビューでこう語った。今月の米失業率は20%を超える可能性が高く、雇用対策は急務だが、新型コロナ後の新しい社会で必要とされない仕事に労働者が復帰する恐れがある。
総裁は「まずは成長産業を見定める必要がある」と指摘。ニューヨーク連銀も、前回の景気後退後に導入された職業訓練制度について、時代のニーズに合った訓練を提供できず、失業がかえって長引いた可能性があるとの研究報告をまとめている。
<来週からスタートの貸出制度>
FRBは来週までに、従業員500人ー1万5000人の企業に民間銀行を通じて融資する「メインストリート貸出制度」をスタートする予定だ。この制度は約2カ月前に発表されたが、細部を詰めるのに時間がかかり、開始が遅れていた。
同制度を管轄するボストン地区連銀のローゼングレン総裁は、融資条件の落としどころについて、「問題のない」企業にとっては割高で、民間銀行が資金を貸し渋る問題のある企業を退場させる水準を目指したと説明している。
同総裁は24日、CBSの番組で「昨年末にかけて問題なく営業していた企業をターゲットにしたい」と発言。FRBは今回の制度について、目的は救済ではなく、FRBが利益を上げられるような形で「ライフイライン」として資金を提供することにあると説明している。
<高くない資金需要>
FRBがこれまで導入してきた緊急制度は、主に金融機関向けだが、利用はそれほど多くない。これはFRBの政策が奏功した証しだと受け止められている。FRBが金融市場を支援する方針を表明したことで、投資家の間に安心感が広がり、ボーイング、フォード・モーターといった企業が自力で資金を調達できた。
欧州でも、中央銀行が緊急の「流動性」対策を打ち出したが、実際に制度を利用する金融機関は限られており、金融機関に必要だったのは「万が一の場合に利用できる」という安心感だったことがうかがえる。
だが、実体経済で活動する数千社が対象となり得るFRBのメインストリート貸出制度は話が別だ。当のFRBでさえ、旺盛な需要を予想している。世界的に危機が広がる中、過度に厳格な条件を設定したくないというのも本音だ。
日銀も金融機関を通じて中小企業の資金繰りを助ける資金供給策を決定。英政府も同様の制度を導入したが、細部が重要であることが浮き彫りとなった。英政府が危機で打撃を受けた企業向け銀行融資の80%を保証すると表明しても、銀行は融資に慎重だったが、保証を100%に引き上げると融資が倍増した。
<再配置のショック>
一部のエコノミストは、今回の新型コロナ危機で発生しかねない不良債権という負の遺産についてすでに議論を始めている。1990年代の貯蓄貸付組合(S&L)危機や2007年の住宅バブル崩壊で必要になった不良債権対策と同じような措置がまた必要になるのかという議論だ。
一方、労働市場と企業投資については、すでに「再配置のショック」が始まっているとの指摘が出ている。
シカゴ大学の経済学者ホセ・マリア・バレロ、ニック・ブルーム、スティーブン・J・デイビス各氏は共同論文で、今回のコロナ危機で失われた雇用の40%以上は、永久に消滅すると推定。政府は新たな仕事への移行を促すべきで潤沢な失業給付を長期にわたって給付すべきではないと訴えている。
ただ、新しい仕事や新しい産業への移行は「破壊」の後に実現するとみられ、「こうした理由もあり、景気の回復には時間がかかると予想している」という。

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