焦点:トランプ大統領の「非常事態宣言」、法廷闘争に火蓋

Ginger Gibson and Jan Wolfe
[ワシントン 15日 ロイター] - トランプ米大統領は15日、議会の承認を得ずにメキシコ国境の壁建設費用を確保するため、国家非常事態を宣言。民主党は憲法違反として、提訴する構えを見せているほか、共和党内でも見解が分かれている。
法廷闘争に発展するのはほぼ確実で、2020年の米大統領選まで尾を引き、トランプ氏に対する批判勢力を勢いづかせる可能性がある。
法律学者らによると、法廷闘争における争点は(1)メキシコ国境に本当に非常事態が存在するか(2)税金の使途を巡る大統領の裁量権──の2点に集約されそうだ。
●大統領の裁量権
税金の使い道は通常、議会で決めることが憲法で定められている。
しかし1976年に成立した「国家非常事態法」により、国家が非常事態に直面した際には議会採決を経ずに大統領が資金の使途を決めることができるようになった。法律専門家によると、この法律は「非常事態」を定義していないため、非常事態宣言に際しての大統領の裁量は大きい。
同法はまた、議会に非常事態宣言を無効化する権限を持たせているが、その場合には上下両院が行動を起こす必要がある。現在、上院はトランプ氏と同じ共和党、下院は民主党が支配しているため、実現は難しそうだ。
アイテム 1 の 4  2月15日、トランプ米大統領(写真)は、議会の承認を得ずにメキシコ国境の壁建設費用を確保するため、国家非常事態宣言を発令。ホワイトハウスで1日撮影(2019年 ロイター/Jim Young)
1979年以降、国家非常事態宣言が発効したのは約30回で、79年のイラン米大使館人質事件や2009年の豚インフルエンザ感染拡大などが含まれる。
●乏しい前例
大統領の国家非常事態宣言を巡り、法廷闘争が行われた前例はほとんどなく、闘争の行方について専門家の見方は分かれている。
テキサス大の国家安全保障法教授、ロバート・チェスニー氏によると、トランプ大統領の宣言に対する訴訟は成功するかもしれないとしつつ、裁判所は通常、国家安全保障に関しては大統領の顔を立てるとの見方を示した。
ブレナン・センター・フォー・ジャスティスの弁護士、エリザベス・ゴイティン氏は、大統領の国家非常事態宣言に関するさまざまな法律に鑑みると、壁の建設は許容できないことを示す強い論拠があると述べた。
米最高裁は、下院の個々の議員がホワイトハウスの行動について提訴する権限を否定しているが、下院全体としての提訴であれば法的権限が強まる可能性がある。
またチェスニー氏によると、トランプ氏が軍事費を壁建設に振り向ける結果、事業契約を破棄されることになる個人や企業も、同氏を提訴する可能性がある。壁建設のために土地を接収される土地保有者も同じだ。
仮に非常事態の存在が認められたとしても、トランプ氏は現実的な問題に直面する。本年度の軍事建設プロジェクト予算、約104億ドルの中で、壁建設に回せる資金を確保する必要があるためだ。
米軍は、軍事建設予算にどれほどの余裕があるかを公表しておらず、壁建設を大きく進めるだけの資金が残っているかは不明だ。

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